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僕と彼女の声帯心理戦争

第9章 【第2章】三顧の礼


「……うん。君が頭がまわるのも、演技が出来るのもよく分かったよ。君の不在で、帝国内の士気が下がるのも、昨晩ライブが無いのと君の体調不良ってだけで随分皆落ち込んでいたからね。」
また来るよ、と言い残し司は去っていく。

はいな~、と葵は手を振っていた。

******
日を跨ぎ、3度目の逢瀬。
なるほど、体調を崩しているという『名目』があれば逢瀬もしやすい。何より自分が『監視役』の名目で司との逢瀬の際に氷月など他の人が入らない様にする事も出来る。
彼女の狙いを羽京は理解した。納得はしていないが。
その度に彼女は今の司帝国の問題点を突いた。

「司君は~、一度懐に入れた人間は割と信じちゃいますよね」
「それは…言い返せないかな」司が苦笑した。
「上に立つ人というのは他人なんてまるっと信じちゃダメなんですよ」

ポツリと。まるで自分がそうであるかのように彼女は呟いた。
「豊臣秀吉ですら、黒田官兵衛の事を恐れてましたから。自分の次に来るのは官兵衛だとーー。」

盤上の駒をじぃーっと見詰める。そこに出来ていた勢力図では、彼女が氷月達と司達の間に挟まる形で君臨していた。

「参謀って人間が典型的ですが~、力のある人間というのは恐れても仕方が無いのですー。ゲンさんの二の舞を恐れたから、同じ様な人は今居ないんですよね?」
「…そうだよ。」
「気持ちは分かりますが…私は、ファンですら実を言うと信じていないのです」

これには司も監視の羽京も目を見開いた。ファンが聞いてたら心底失望するだろう。

「彼らは私の『歌』が好きなだけです。個人でどの辺の歌が好きかも違う。ファンなんてのは、いつ『ファンで無くなるか分からない』ーー薄っぺらい同盟の様なもんです」

司さんの周りにもいませんか?そういう人。

「…そうだね。心からのファンは…居ないだろうね」
「…私の言うことじゃありませんが、あまり気にやまず~。そのうち、本当に『お友達』になれる人が現れますよ~」

葵の言葉に、司はかつて共に生活をしたーー石神千空の姿を思い返した。友達になれたかもしれない、唯一の男。

「……そうだね。これで、三顧の礼は終わりだ。君を正式に『軍師』として迎え入れたい。君さえ良ければ、今日の晩ご飯に顔を出してくれ」
それで返事にする、という事だろう。

「はい~。三顧の礼、お疲れ様でした~」
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