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僕と彼女の声帯心理戦争

第9章 【第2章】三顧の礼


「…思想ですかね。所謂優生思想っぽい感じです。
優れた人間、……『ちゃんとしてる人間』が大好きなんですよ、彼は。まあそういう家柄なんで何とも言えませんが……。
……氷月が千空さんの科学王国を攻めた時に、数人亡くなった、って聞きました」

司が沈黙する。

「……君にはその手の話が行かない様にしてた筈だけれど」「普通にファンが口割りました~」
さらりと言ってのける。

「……千空、という人は会ったことないのでハッキリと中身を測りかねますが…。その人、人を殺せるんですか?」
「……どういう、意味かな。葵」
険しい顔で司が告げる。

「聞く限りでは、『人類70億人もれなく科学で助けるマン』らしいので~。しかも石神村を襲撃した時に、1人も犠牲を出さなかった……
そんな人が、毒ガスで人を殺すんですかね~」

(あ……)

それは、羽京も氷月の報告を聞いた時に思った。
毒ガスなら防ぐのは難しい。だが、氷月とほむらの二人は生き残っている。
妙だな、と。思った覚えはある。

司も目を丸くしている。

「……温泉地帯…なら硫化水素…リューサンですね。下に沈んでたのが、嵐で降りてきた、って所でしょうか…。
どうして都合よーく、氷月とほむらちゃんだけが生き残ったんでしょう?」

「それは……」
「普通に考えれば……毒ガスを足止め程度に使っただけで、殺す意思は無く……『下に溜まるから木の上ででも待てば良い』と……
ご立派で70億人もれなく助けるマンな千空さんなら言うのでは~」

「…………!!!」

司の脳内で、そう告げる千空の姿が脳裏に浮かんだ。
…だが、この疑念を抱かせる事すら彼女の計画のうちかもしれない。

「……君が要求するのはなんだい?」
「……いえ、特に何も」
「……何も……?」
「はい。ここまでで、必要な駒は揃ってますので。
……私から求める物は無いですが…そうですねぇ…強いて言うなら」

うーーん、と彼女が首を捻る。

「三顧の礼、ですかね。」

「…あと2回、君に会いに来ればいいのかい」
「はい~。でしたら」

ニッ。まるであさぎりゲンのように、底の読めない腹黒い笑顔で彼女が言った。
「…私が『参謀』になりますよ。文字通り、帝国のクイーンに」

そう言うと、彼女は自分の支持者の中心に、コトリとクイーンの駒を置いた。
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