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僕と彼女の声帯心理戦争

第9章 【第2章】三顧の礼


葵の作り上げた『謀略の議会』から一晩明けた翌朝。

「ーー体調の方はどうかな、葵」
彼女の目論見通り、司が彼女の寝所に来ていた。

が、それまで横になり「うう…」としんどそうにしていた彼女はその言葉を合図にニヤリと笑いムクリと起き上がる。入口付近で警戒していた羽京は嫌な予感がした。彼女と長く近くに居たからこそ分かる、予感。

「ーー風邪は嘘です。昨日の会議を仕掛けたのも私です」そう、『氷月』の声音で告げたのだ。

流石にこれには司も固まった。

「……君は本当に演技が出来るんだね、葵。気付かなかったよ」やれやれという風にため息をつく司。そこまで大きく動じないのは、流石は一国の主といった所か。

「昨日の会議の乱入も、昨晩から風邪を引いたというのもーーうん、嘘だね」
そう言うと冷たい視線で葵を見据えた。
「君が危険である以上ーー「あ〜ハイハイ知ってますよ~」

思いっきり司の話を遮る葵。
そんな芸当が出来るのはこの人しか居ないだろう…た内心羽京は思った。

「危険ですけど~、私より余っ程危険なの傍に置いてる人に言えませんね~~」
「まさか、氷月の事かい?」
昨日自分にも見せた、ぐちゃぐちゃ勢力図を見せると、彼女は氷の駒を握ってニッと笑った。

「私の見立てですと、強さは司君と同じくらいですよね?」
「……うん。確かに、彼はとても強いよ」
彼女を警戒して、ハッキリとは応えない司。

「誤魔化さないで下さいよ~。こっちは向こうと縁談まで組まれて練習試合も見てますんで」そう言いながら、氷の駒をクイーンの駒の横にことり、と彼女は置いた。

「……昔、同じ道場に居たのは」「本当です。私は天才呼ばわりされましたね。家が仲良しなんですよ」

そう言いながらつまんなさそうに今度はクイーンの駒をクルクルと手で弄ぶ。
「…まあ、私はそんなに槍術に拘りないし、音楽の道に行きたかったので辞めましたが。私が辞めるまでーー」
クイーンが氷の駒の上にトン、と置かれた。

「ーー彼に、一度も負けた事は有りません」
ぞわり、と背筋の凍る様な綺麗な笑顔で告げる葵。

観念したように、司が告げる。
「……氷月は、確かに俺と同じ位には強いね。でも、彼をそこまで警戒する理由は?」
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