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僕と彼女の声帯心理戦争

第1章 【プロローグ】宣戦布告


「アオさんてファンの間では言うんですよ、先輩!!」
前では先輩同士がぎゃいぎゃい騒いでいる。
「この人白黒歌合戦にも出たのに、顔出ししなかったんですよ!マジでショックなんです!!」
「そうなんですね」年長の先輩が可哀想なので、助け舟に相槌を打つ。

「このショック具合分かってないだろ、羽京!?デビューもうすぐ10周年なのにずーっとプロフが謎なの!アマも含めたら12年!!女の人ってことしか分かってないんだよ!」興奮冷めやらぬ先輩が噛み付く。

若干勢いに引きつつ、取り敢えず返答する。
「でも、白黒歌合戦に出るなら何か情報出るんじゃ「無かった!」
今度は台詞にまで被せてきた。
正直さっきのCMのAonnという人の歌の方が聞いてて不快感が無いし、今は先輩の声にテレビのワイドショーの音で耳がパンパン、高カロリー状態だ。

「歌は生歌だったんだけど、画面が曲のPVと歌詞だけ映して、音声だけ別会場から中継だったんだよ!訳分からねーよ、ぜってえ〜こんな美声なら超絶美人なのに!」美人云々はともかく、それなら確かに何も分からないだろう。

「でもライブとかは流石にあるんですよね?」
「あるよ!あるけど本人の姿は出さないでバックで歌だけ歌ってる!質問とか歌以外で話す時は答えた内容を別の人が代わりに話してるんだ!Aonnさんの返事を司会進行のおっさんの声で聞かされたくないんだ!!
いや俺らもおっさんなるけどさぁ、そのうち!!俺は生歌を目の前で!アオさんの姿目に焼き付けて!歌われたいんだよ!!せめて今度の10周年記念ライブでは!!無理なら命が尽きる前に!!!」
話が壮大になって行く。流石にお手上げだと思い、見れたら良いですね、と適当に区切ったーー

そこまで思い出した所で、遥か前方で歌う少女の姿が重なった。何処か切なく、儚く、そして優しげな歌。

その歌は、亡くなった人が地球にまだ居る生きている大事な人にさよなら、僕は逝くからね、と遥か彼方の宇宙の星になって語りかける曲だった。
少女が呼吸をし、歌声を発する。それに合わせて草木がゆるりと揺れてコーラスする。青く抜ける空に声が溶けていく。
少女の声は天へと愛と別れを叫ぶ。

ーーー全ての歌声が空に溶けると、少女は深く息を吐いた。
くるりと司の方を向くと、今までありがとうございました〜、と深々と礼をした。
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