第1章 【プロローグ】宣戦布告
ーーーー透き通る様な、硝子の様な声だった
もしも ひとつ だけ願うなら
あの日の 朝ごはん から直そうか
それで いつも 通りの顔で
見ているよ 君の 最期の笑顔ーー……
少女の声は目の前の亡き生命に捧げる、愛の言葉ーーーー。
(あれ、この曲……何処かで)
聴き覚えがある。羽京は反射的にそう思った。自分自身は積極的に音楽を聞いたりしない。もちろん歌手が嫌いな訳では無いので、海上自衛隊の寮の同室の先輩達が音楽番組を見たりテレビで曲が流れる分には問題ない。
……テレビ?そうだ、この曲はーー
羽京の中で、旧世界ーー
現代の頃の日常の一コマが蘇った。
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「俺、このCMすげぇ好きなんだよな〜!」
相部屋の先輩のうち1人が叫ぶ。テレビに目をやると、アニメーションで作られたCMだった。
1人の女子高生が白いイヤホンをしている。
歩道橋で欄干に腕を乗せて、上着のポケットには白いスマートフォンが入っている。
儚げに微笑みながら左耳に片手をやり、目をそっと閉じていた。右目からはつう、と涙が滴る。
それはとあるスポーツドリンクのCMだった。音楽を聴きながら涙を流す少女が、最後に瞼を開けて右手に握り締めた清涼飲料水を飲む。ラストで『青い春の、終わりに。アクアリアス』と夕暮れの背景と少女の背中をバックに白抜きのテロップ。
「羽京!お前もそう思うだろ!?」くるりと急に先輩がこちらに身体を向ける。ついでに話題も。
先輩の「好き」は何処の部分だったのだろう?
映像の事だろうか。確かにアニメ映像のCMはまだ珍しい。
「綺麗な映像ですよね」
「そっちじゃねーよ!分かってないな〜羽京は!」
「そうなんですね」はは、と苦笑いした。流石に難題過ぎる。
「よーし、『海自史上最高の地獄耳』なのに音楽詳しくねえお前に俺が教えてやるよ!バックの曲だよ!!アオさんの!!」
「その人の名前はAonn(アオン)だろ」
いつも寡黙な最年長の先輩まで会話に参加してきた。
普段は自分同様、音楽に興味の無さげな先輩ですら知っているのだから有名な人なのだろう。
(確かに普段は音楽なんて耳障りな位聴こえるのに、さっきの人のは何処か静かで、それでいて無音じゃない……不思議な歌だったな)
自分がさらりと聴き流せる、というのはある意味「耳障りが良い」という事でもあった。
