第4章 【第1章】嵐の前の静けさ Day2
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その日の晩ご飯は、昨日葵が言ったように煮込んだ縄文鍋。
これが大好評だった。口の中で溶けるようなイノシシの食感に、皆が口々に美味しいと言い、お代わりの行列が出来た。
(これは確かに美味しいな……)
「羽京プロデューサー、どうです?」
ひょこっ。葵が急に隣から顔を出す。
わっ、と内心驚きつつ、美味しいよと答える。
「……ふふ、良かったです~。牡丹鍋、昔作ってたので経験則でやったのですが、上手く行って良かったです」
ふわり、とまた昨日の様な天使の微笑みを残して、彼女は再びお代わりの人の配膳に向かう。
ーー彼女は天使なのか。悪女なのか。それとも
昼間の様な、善人なのか。分からない。
そう思いつつ、羽京は縄文鍋を啜った。
ライブでは、リクエスト企画が出来たのはニッキーのお陰でリクエスト第1号なので、特別に最初に歌わせてもらう、という理由付けでリリアン・ワインバーグの『One Small Step』が歌われた。
歌い終える頃にはニッキーの涙腺が決壊していた。
「最高だよ…!!ありがとう…!!!」
「いえいえ~!はい、ニッキーちゃん、これ」
スッ、と蒼い布のリボン。そこにはAonnの刺繍と十字架。そしてーーーー
「り、リリアンのサインの再現……!?しかも字の雰囲気がこれ…ガチじゃないか…!!」
「ガチファンの一人として書き癖は見るよね~」
「葵…!本当にありがとう!」
いえいえ~と言いつつ、ニッキーに何処に結ぼうか?と問う姿は、正しくプロのミュージシャンの鑑だった。
その後も慌ただしくプロフィールの質疑応答やリクエスト曲受付を終えた。