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僕と彼女の声帯心理戦争

第4章 【第1章】嵐の前の静けさ Day2


帰宅する彼女の背中に、駄目元でもう一度問いかける。

「……葵」
「ふぁい?」いつもの間延びした返事。

「氷月と、知り合いなのかい?」
今度も直球の質問。
彼女は、かなり手強い相手だ。カリスマ性と演技力やその他諸々の能力に長けた、良くも悪くも自身の目論む『科学王国への裏切り』の可能性を大きく狭める存在。

「…司君と戦うとしたら、羽京君は何があれば勝負出来ると思います?」質問を質問で返された。

「葵、ふざ「ふざけて無いですよ」
まるで氷月の様な、冷徹な声が羽京を射抜く。

彼女は底の知れない瞳で、寝所に向かう道の上から羽京を見下ろしていた。

「……『ちゃんとした』答えでしたら、私も返事をします」氷月の声だ。淡々とした喋り口調も、完全に氷月のそれだ。

思い返せば彼女は最初の尋問時以外、
不思議なくらい氷月のみ鉢合わせないし、話しかけない。尋問時も氷月は居合わせただけだ。

……だから、今の声真似や雰囲気まで似せるのは、本人を知らないと出来ないはずだ。
彼女が何かしら知ってるのは確かなはず。
そこを上手く引き出せばーー。

取り敢えず質問された内容について考える。
……あの霊長類最強の司と戦うなら。人を傷付けるなど正直考えたくも無いが、自分なら銃など火器を用意するだろう。あとはーー、

「……火器と仲間、かな」
「なるほど~」普段の声に戻った。

「氷月と知り合いか、と言うお話ですがーー」
ゴクリ。息を呑む。

「子供の頃からの、腐れ縁ですよ」
「…………!?」
「家が仲が良いのです。そのせいで能力面を比べられたり、散々嫌な目にあいましたし、何よりーーーー」

そこで心底汚い物を見るような目をした。
本気で憎しみの篭った眼差し。
「ーーーーあの思想が、とても苦手です」

そう言うと、またくるりと服の裾を翻して寝所へ戻って行った。

ーー幼い頃からの、深い付き合い。
何となくだが、先程の発言はウソでは無いーー

羽京の第六感が告げていた。あの声は本物だと。
そして、彼女からの質問内容。
……まさか司と戦うつもりか?でも彼女には戦闘能力は無い。仮に自分の挙げた後者の仲間はまだしも、火器は?

……分からない。彼女と居ると、いつも狐に包まれた気分だ。

羽京は空を見上げる。その日の月はーー不気味な、青白い三日月だった。
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