第3章 【第1章】嵐の前の静けさ Day1
言うなれば、Aonnを知らない人でも彼女と接点ができるのだ。
(これも上手いな……。昨日参加してない人を取り込んでる。リクエストのしやすさにも繋がるし、何より高嶺の花の様な存在が目の前に降りてきた様な親近感があるね)
羽京は関心しながら、その様子を見ていた。
その日のライブも盛況に終わった。
「明日からリクエスト曲歌いますよ~」の一言に湧き、彼女の元にリクエストの人だかりが出来た。
あまりに人が多いので、ほどほどの所で司の止めが入り、リクエスト上限人数を設けた。
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「アー疲れたーーーー」
この子普通にしてたら綺麗な子なのに、何で僕の前ではこんなに変貌するんだろ…
思わずそんな事を思いながら、寝所まで行く彼女に着いていく。
「まさかあんなにリクが来るとは…」
「あはは…君が自分の力を過小評価してたからじゃないかな…?」
「ですかね~。お陰で司君にご迷惑もかけちゃいました~」しゅーんと項垂れる葵。
いちばん迷惑をかけてる相手が後ろに居るのだが。
もちろん口が裂けてもそんな事は言わな
「まあ大迷惑第1位はうきょー君ですな!」カッ!と目を見開いてにしし、と笑いながら振り返る彼女。
「言っちゃう子だね、葵は……?」
「言っちゃいました~許しは請いません。後悔も反省する意思もありません」
「せめて反省はしよっか」
全く、平穏な日々を返して欲しい。
そう思いながら歩いているとーー
目の前の彼女がピタリ、と止まった。
「…羽京君は、神様って居ると思います?」
「え…」
唐突な質問に驚いた。彼女の表情は見えない。少し俯いて、月を背景に立つ後ろ姿は傍目から見れば絵にはなるがーー何処か、悲哀に満ちていた。
「私は『神は死んだ』どころか、初めから居ないと思っています」そう続ける。
「…どうして?」
「私の大事なーー××君を、殺したから」
××君。恐らく、以前口にしていた、元結婚相手の事だろう。でも、殺したって?
「××君はね、目が見えないんです。だから、身の回りの世話は基本私がやってました。音楽活動もあったので、家政婦さんを雇うのも考えましたが……最小限に抑えて、出来るだけ私がやりました」
そして彼女が月を見上げる。銀色の緩くウェーブのかかった『お姫様の様だ』と持て囃されるその髪が、風にそよぐ。
