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僕と彼女の声帯心理戦争

第3章 【第1章】嵐の前の静けさ Day1


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「帰ってきました~」

皆が食事を終えた頃。
葵の後ろで司が大きな木の幹の切り株…を根っこごと丸々引き抜いたのを抱えている。

司がドスッ、と昨晩同様みんなの真ん前に切り株を置く。多分椅子のつもりなんだろうが、スケールがデカすぎる。

「注目です〜。今後は毎晩ライブやりますー。リクエスト曲を中心に歌います」よく通るように張った声で葵が言うと、おおっ!と帝国人が湧く。その後リクエストのルールやリクエストを歌われると記念グッズのリボンが贈られる事などを説明。

そして、と更に大きな声で葵が言う。
「もう既に聞いた人もいますが…プロフィール公開します〜」おおおおお!!更に盛り上がる。
10周年記念ライブの話も一通り話す。

で、肝心の今日の曲ですが、と少しトーンを抑えた声で彼女が言う。
「リクエスト受付は今晩からなので、今日は他のアーティストさんの曲をカバーします~」

そうか、ニッキーの受付はこのルールだと1人先走って受け付けをした……ファンからしたらズルに見えてしまう。
だから今日はリクエスト外にしたのだろう。

(上手いな)

彼女はどうも人の心理を読み、上手く手のひらの上で都合の良い様に転がせる。良くも悪くも。

「リクエストは今日みたいに他のアーティストさんの曲でもなんでも歓迎です〜
……という意味合いも込めまして今日の曲は
山村由三さんの『しょっぺえぜ人生』です〜
皆さん一緒に掛け声部分歌って下さいねー」

えっ、その曲……??誰もが知っている曲だが、歌詞が……

周囲のざわめきを他所に、葵がスッと切り株に座る。ギターを弾くような構えで歌い出す。

「しょっぺえな しょっぺえな〜 俺のじんせいいいいいいいい」

…………

突然超低音おっさんボイスで、オッサンの人生に疲れた歌を歌い出すものだから、最初は沈黙したが…

「しょっぺえな!」
「「「「「あい!!!」」」」

「マジやってらんね」
「「「「やってらんねー!!!」」」」

今では見た目と声のギャップで笑い出し、みんな掛け声に合わせて一緒に歌い出す始末だ。
今回の曲はAonnの曲ではない有名なギャグ曲だからか、昨日参加してなかった人までノリノリだ。

確かにこんな渋い声まで出してネタ曲もガッツリ歌うなら、他の歌手の曲もリクエスト出来るーー
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