第3章 【第1章】嵐の前の静けさ Day1
何より彼女の行動理由がまるで掴めないうちは、野放しにしておくべきだろう。
一先ず調理場に行く。
「おい、どうした羽京。アオさんが居るからお前も来たのか?」ニヤニヤと笑う仲間の男性。
普段こういう場に来ないし避けてきたからだろうか。完全にからかわれている。困ったな……
「あはは、「羽京君はプロデューサーさんなのです!!」ガッと無理やり興奮気味に会話に割り込む葵。え、とこれには流石に驚く。
「お歌をいっぱい聞いて貰って、変な所あったら教えて貰うのです~」「へえ~!」「いいな、羽京!役得じゃん!」
完全に適当な葵の嘘に皆乗せられている。
「あはは、…一応そんな感じかな」羽京も話を合わせる。
「いいなー変わって欲しいくらいだぜ」
「それは…」「いや羽京クラスの地獄耳は無いから俺らには無理じゃねえ?」「それもそうか~」
そう談笑している間に葵が鮮やかにイノシシの肉を切り分けていく。あまりに手付きが良いのでおお~と周囲の手が止まる程だ。
「今日の献立は何ですかね?」「お前作ってる最中なのに分かってねーのかよ!」ドッと笑いが起きる。対して葵は動じない。
「今日の晩ご飯はですね~、季節の『縄文鍋』ですな!」
「「「「縄文鍋?」」」」
一同声を揃える。
「はい~。縄文時代に実際に作られてたお鍋です。今は冬なのでイノシシさん、なめことまいたけ、山芋ですね。春になればコゴミ、ノビル、ゼンマイとか山菜を入れたらしいです~」
スラスラと言ってのけると、ポイポイと具材を入れていく。
「イノシシのお肉は、出来ればもう一日更に煮て食べた方が美味しいです。その方がホロッと溶ける様な食感に近くなるのです~」
一同唖然とする中で何馬力なのか分からないペースで調理する。我に返った調理員達が口々に凄いと褒めたたえる。
「ありがとうございます」そう言って葵がニコッと笑えばうおおおと歓声。完全なる独壇場だ。
……凄い。凄いけど、縄文時代の食事まで、普通は料理が出来るは知ってる理由にならない筈だ。
羽京は試しに質問をぶつける事にした。皆が見ている前だがーー逆に今この場でした方が、変なはぐらかしが効かないだろう。
「葵、もしかして歴史とか詳しいのかな?」
「まあそこそこ~。私、これでも大学で歴史学やってたので」