第3章 【第1章】嵐の前の静けさ Day1
事前に「大樹と杠の元に行く」と申告されてなかったら、自分も気付かなかったかもしれない。
いや、それなら大樹は?杠の元に行く、と言えばいいんじゃないか。
羽京の悩む姿を他所に、周囲は盛り上がる。
「葵、アンタ、またライブやってくれるのかい!?」
「はい~。幸いにも好評だったので、司君の意見を聞きつつやろうかと~。毎晩出来たらいいな~」
「うおおお!凄いじゃないかーーーー!!!」
「そりゃあ楽しみだ!!毎日働く楽しみが増えるってモンだよ!!」
ふふふ、と笑う彼女を横目に真剣な顔つきをしていると、あれ、と今度は会話の矛先が自分に向かう。
「どしたの、羽京君?体調悪いです?休みます…?」
葵が顔を覗き込んでくる。
「あ…えっと」答えようとすると彼女がニヤリと悪い顔をした。
《ワザとだよ》
そう微かに周りに聞こえない程度の息を出しつつ言ったのである。
「……やっぱり気分がちょっと悪いかも。外で風にあたるね」
「そうなんですね~。でも、羽京君、いっつもお外で寝てるんですよね?もしかしたらそのせいかもです~。でも、ここだと横になれる場所もないですし……」残念です~と眉を下げて言う葵。
……やっぱり、この人は油断ならない。
羽京がそう思っていると、じゃあ羽京、俺の寝床行くか!?ここから近いぞ!と完全に善意の大樹の助太刀が入る。……体力が鬼の大樹の言う『近い』は普通の人の近いでは無いが。
「いいですな~。羽京君、そうした方がいいのでは…?」心配そうに言う彼女。
本来なら大樹の監視役であるニッキーも少し考え込むと、同じ『監視役』の羽京なら大丈夫と思ったのだろう。
「…そうだね。行きなよ、羽京」「そうですよ~。私達はここで『女子会』しちゃいますからー。ニッキーちゃんの歌って欲しい曲聞きながら、リリちゃんのお喋りしたり一緒に曲リスト作ったりしますん」ね?と笑う。
「じょ、女子会…!?ってアタシなんか…」「人間心が乙女なら女の子を名乗れるんですよー」
「お、乙女…!?アタシがかい!?」
「はい~。……信じられないです?」首をくいっ、とする彼女にアンタがそう言うんならとモジモジするニッキー。
最も尊敬するミュージシャンの友人で、自身もトップクラスの音楽家の言葉だからか完全に信じきっている。恐らく大樹と羽京を体良く追い払う『口実』だろうに。
