第3章 【第1章】嵐の前の静けさ Day1
「杠ちゃん、ありがと~。そこにお世話になってもいいかな~?ニッキーちゃんも大丈夫?」
杠とニッキーがもちろん!と答える。
と言うわけで!と羽京の方へ笑顔で葵が振り返る。
これは嫌な予感がするね。
「羽京君、『Let's Go!!!!』」
「今のリリアンの声じゃないか!アンタまさか、リリアンの声まんまで歌えたりすんのかい!?」
「頑張ったので~」
「頑張りの問題じゃないよ!!凄いじゃないか…!!」
もしかして、この状況を敢えて利用して、ニッキーを味方につけた…?
興奮して葵に話しかけながら歩くニッキーの後ろ姿にぼんやりとそんな事を考える。
だが今回は不測の事態。そんな事が出来るのか?
ニッキーの好みなんて分からないはず。だとすれば、その場で咄嗟の判断で『味方』に引きずり込んだ。
考えすぎだろうか。
一瞬降って沸いた疑問をかき消す羽京だが、残念ながらその疑問は当たっていたのだった。
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「ほへ~本格的なお部屋ですな!」
杠の手芸工房を内見すると、葵が歓声を上げる。
「そ、そうかな…?」「うん~。生活水準が縄文時代な中でここまで手芸用品があるのは凄いです」
「葵ちゃんも手芸するの?」「そうですね~、割と趣味でやってましたー。編み物とか羊毛フェルトのぬいぐるみとか、ショートケーキとかお菓子のアクセサリーを作ったりとか~」
「わお!そうなんだね!」
今度は杠との話に花が咲く。葵があ、そうだと思い出した様に言う。
「良ければなのですが、杠ちゃんの持ってる裁縫の余った布とかって譲って貰えますか?あと縫い針と糸も」
「いいけど、何か作るの?私、手伝おっか?」
「ニッキーちゃんみたいにリクエストしてくれる子がいるなら、記録様に布が欲しいな~って」そう言うとニッキーの方を振り返りニコリ、と葵が笑う。
なるほどと羽京の中で合点がいく。その為の話題作りに、先程の事態も利用したのか。
確かにこれなら上手く話を繋げやすいし、目の前にニッキーが居る以上、断りづらい。
「凄い…!本格的なライブ活動ですな~。じゃあ、この辺の布全部どうぞ!あと針とかはここにあるの余ってるから」「ありがとう、杠ちゃん」またふわりと葵が笑う。