第3章 【第1章】嵐の前の静けさ Day1
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「おぅふ……?」
そして時計の針は進み、冒頭に戻る。
羽京の前ではひたすらに懇願するニッキーの姿とニッキーに当てられてうおおおおと叫ぶ大樹、自分同様苦笑する杠。
大樹君達ってどこ?と聞きながら適当に探していた彼女。勿論監視役のニッキーと出会うのは必然。
1人緩い声を出しつつある意味一番冷静かつ無反応な辺りは彼女の持つ演技力の賜物なのかなんなのか。
葵がニッキーちゃん~どうどう~と落ち着いて~と背中をさする。
まさかこの葵が大人に見える日が来るとは思っていなかった。……失礼だが。
「うぅ…すまない、アンタを困らせたね…」ぐすっ、ぐすっと涙を拭うニッキー。
「困ってなんていませんよ~。さっきの曲は勿論、私もリリちゃん…リリアンちゃんのファンですし。
ニッキーちゃんが凄く熱心なファンさんなのは分かりました。他の曲も全部歌えますよ~」
「「全部かい(だと)!?」」
ニッキーと大樹の声がダブる。そりゃそうだろう。
「はい~。私リリちゃんと普段から交流のあるお友達ってのは公表してましたよね?」
「あ、ああ……でもまさか全部って…本当かい?」
「もちろん~。私、リリちゃんきっかけで歌い手目指したので」そう言って葵が微笑む。
…………。
場に沈黙が降りた。
「まさかアンタもリリアンを聞いて人生を狂わされたのかい!?」ガシィッとニッキーが葵の両手を掴む。
「はい~。私これでもリリちゃんのファンなんですー。CDとか全部持ってますし、グッズもあります~。ライブも行きましたよー。
実は今夜みんなの前でも公表しようと思ってたのですが…リリちゃんのCD総売上5000万枚ライブで顔を隠してピアノを弾いてる女性が私じゃないか、って噂も本当です」
「なんだって!?!?」ニッキーの葵の手を掴む力が強くなった。ふにょえええと彼女がか細い叫び声を上げる。
流石に不味いので、止めに入る。
「あはは、興奮するのは分かるけど、あまり強く握ると葵の手が壊れちゃうよ」
「そうだね…!済まなかった」パッとニッキーが手を離す。彼女はいえ~と笑って済ませる。
「でも…今夜公表って?」羽京が気になった点を尋ねた。出来ればあまりイレギュラーな事は起こしてもらわず、穏便に監視を外す方向に行きたい。