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僕と彼女の声帯心理戦争

第3章 【第1章】嵐の前の静けさ Day1


が、当人はまた何か食べている。……もう一々驚いていたら神経が持たない。羽京は半ば諦めてそれは?と聞く。
「ドングリとクルミの縄文風サクサククッキー」
「そんなの見た事ないけど……「私が開発しました」「そこまでしたの…!?」「?はい~。」

クッキーを食べ終えた葵がふう、と一息つく。……顔に似合わずよく食べる上に早いなあ、と思いつつ一旦座り、ステーキにかぶりつく。……いつもより焼き方が丁寧だ。ここの国の人達は基本武力と体力のみで選ばれるので、まず焼き加減なんて適当だ。取り敢えず生焼きにならない程度に、じっくりこんがり焼く、ぐらいのレベル。

「あ、変な味でした?お塩あったんでかけたんですけど」「いや、美味しいよ。でもこれ、もしかして焼き加減とか……」「ああ、焼き加減は手の感触で分かるんです」
そう言いつつ彼女は右手をぐっぱぐっぱする。

「こうやってOKサインみたいなの作るんです」そう言いつつ人差し指、中指……と指をくっつける。
指に寄って親指の付け根の感触違うでしょ?と言う彼女に倣って、自分もやる。

「この親指の付け根部分の感触が違うんですが~、これがステーキをグッと押した時の感触と同じなんです」「へえ……」これには素直に関心の声が出た。本来の歌手業、歌に狙った音を出せる発声、演技に、料理まで出来るのか。

「合わせる指で感触が違うんです。取り敢えず今回は薬指で合わせた時の感触、ミディアムにしときましたー。これが一番無難かな、って思ったんですけど」なんか違いました?と首をくいっ、といつもの様に傾ける。これも見慣れて来た。

「いや、美味しいよ」「……そうですか」

(あれ?)

耳が一つのノイズを拾う。肉を食べるのを止めてチラリと目の前の人物を見上げると、岩の上に座り、自分を今まで見た事ない位のふわりと羽京を包み込む様な……天使の微笑みで見下ろしていた。
心の底から嬉しそうな顔。

(わ……)

思わず食事の手を止める。恋愛事は疎いし、あまり得意ではない。好意を寄せてくる子も居たが……相手には悪いが、その手の話は避けてきた。

恋愛事となれば、いざこざになりかねない。男友達で同じ子を好きになって険悪になっていたし、自分も巻き込まれたくなかった。だから敢えて距離を取っていた。
自衛隊に居ればそういう話からも自然と逃れられたので、そこはある意味有難かった。
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