第2章 【第1章】前哨戦
「近所迷惑って…」また気配を消されたのもだが、なかなか手厳しいワードを投げられたものだ。
「夜間なので〜。まあこの辺誰も居ないので大丈夫かとは思いますが、私は居ますんで。お静かにですよ〜」今度は自身の唇に人差し指を立てる。
「恩返しは勝手にさせとけばいいんですよ〜」
「昼間、大分危ない発言してたから放っとける範囲じゃなかったけれどね」
「どの辺がです〜?」くいっ。いつもの首クイが出る。
「……君はもう少し自分を大事にしようね…?」
「大事にですか」
「今日の昼間みたいな、命を投げ出す様な事はあんまりしないでね」
「んん…?そう言われましても。」コホン。咳払いして、薄笑いで葵が言う。
「『義にあたりて命を惜むべきにあらず』」男性の声だ。それも低い声の。
あさぎりゲンが司帝国時代に男性声での声真似を周囲に披露していたのと同等レベル程度には上手い。しかも異性の声を出せるとは。
「……それは誰かの言葉?」
「黒田官兵衛です~。『義』は人が成すべき正しい行い。義の旗を立て続ける為ならば…命を惜しむべきではない」
「…………」
(正しい事、か……)
その言葉が羽京の脳裏に刻まれた。
「羽京君が司君の石像破壊を止めなかったのは、命を大事にしたからですよね」
びくり、と羽京の肩が震えた。命を大事にした。
ただし、自分の場合は『命』の前に『自分の』が入るが。
保身に走った。そうだ、僕はずっと保身に走っていた。本来なら誰かが止めるべき所をずっと、司が『霊長類最強』で逆らえない存在だから、と理由を付けて逃げたのは、自分だ……
「あはは、その通りだよ」取り繕った笑み。
「むむー」するとズズいと彼女の顔が寄ってきた。
両手が伸びてくる。
(……え)
ムニッ。両頬を掴まれて左右に引っ張られる。
「ひ、ひょっと……!?」
「傷付いてるのに、嘘つくと良くないんです〜」
引っ張る手がピン、と離される。
「嘘は付いてないよ」「付いてました〜。辛いのに笑ったら勘違いされますっ!」ここ2週間、彼女を見ている中で怒ったりしているのは滅多に…それこそ、今日を除いて無かった。その彼女が怒っている。他ならぬ自分の為に。
「……傷付く言い方しちゃって、ごめんなさい。羽京君なりに葛藤があったんですよね?石像破壊を止めようとする事で、自分の命が危うくなるの位、分かってます」
