第2章 【第1章】前哨戦
私は分かった上でやったんです。あくまで私の判断です。別に自分の命だって大事な命のうちの一つですから。全然悪い事じゃないです。そんなの罪のうちに入らないんで罪悪感感じる必要ゼロです」
ピッ!と指を向ける葵。
「そもそも人間なんて自分がいちばーん可愛くて大事で仕方ないんですから、当たり前なんですよ。自分第一なんです、普通は。貴方の為に、なんて言う人間さんは結局自分の為にやってるだけなんです、それで満足したいだけなんです〜
だから別に変な責任感は要らないんですよ、放っとけばいいのです」
正直これには驚いた。彼女はいつもぼんやりとしていて、何処か世間ズレしている…そういうイメージだったからだ。しかも、昼間の何処か危うい雰囲気とも今は違う。すらすらと、それでいて重みを失わずに並べられた言葉からは、確かな温かみーー
ーー他人の為に、自分の為に並べられた温かな料理の様な雰囲気を感じた。
何となくだが少し素の部分……彼女自身が持つ価値観が見えた気がする。こっちのまだ掴みやすい優しい彼女と、昼間の様な宣戦布告なんて言う悪人の様な物騒な彼女。どちらが本物なのだろうか?
その上、余りにも正確無比に自分の心を言い当てられて、逆に羽京の方がたじたじしてしまった。
「そう、だね…君が言うなら、きっとそうなんだろうね」「だろうねじゃないです〜そうなんです〜〜」少しむくれる葵。
可愛らしい姿に思わずふふ、と笑い声を零すと、え?今のは何処が笑うポイント??とはてなマークを頭の上に浮かべている。
……本当に、不思議な子だなあ。
「で、監視さんはお役御免なんです?私どう見てもスパイじゃ無いですし」
「そうだね、近いうちに司から指示が下りると思うよ」
「じゃあもう毎日会うのは難しいですかね〜」葵が少し俯く。まさか、落ち込んでるのだろうか?いや、彼女の行為に一喜一憂していては正直キリがないが…葵に何をしたら喜ぶのか、何をしたら悲しむのか…よく分からない。羽京が戸惑ってる間に、あ、じゃあと彼女が声を上げる。
「私、ちょっと明日から『動きます』んで。監視役さんは羽京君で強制続行ですよ」
「それは司が決めるんじゃ」
「明日はね〜、杠ちゃんと大樹君の所行こうかな!じゃあおやすみなさ〜」「ちょ、ま」
羽京の返事も聞かずに風のように去っていく。
