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僕と彼女の声帯心理戦争

第2章 【第1章】前哨戦


何より、千空たち科学王国は氷月達の襲撃時に「村民誰一人犠牲にしようとはしなかった」と聞いている。
そんな科学王国が、こんな仲間を弱らせた状態でスパイとして送り込むとは到底思えない。

なら、この少女は何処から来たのか?
復活液ーー奇跡の水、硝酸はこの辺りだとここにしかない。そして硝酸だけでなくアルコールも必要だ。寄って誰かに復活させられた線は薄い。

一番濃厚なのは、『千空』がしたようにずっと考え続ける事が出来て、自力で起きた、という説だ。もちろんこれも3700年以上1人で脳を回転させ続けるという物で、普通の人間ならまず無理だ。

あの霊長類最強の高校生と呼ばれた司ですら無理だった事を、この少女がやってのけたのだろうか?

……分からない。謎ばかりだ。

「……君は、誰なんだい?」
羽京の問は空に消え、代わりに穏やかな吐息のみがその空間の音を支配していた。

******

「……あんなのは……助けた内にも、恩返しする理由にもならないよ」

助けた筈の『あの日』の事を思い出して、少し苦々しくなった。あの後、目覚めて話せる様になった後、彼女は直ぐ様司達の前に連行されたのだ。
自分と氷月、そして司達男性達に取り囲まれ、「尋問」された。

彼女は少しびっくりしつつ、正直に答えていった。千空の名前にもさっぱり分からない、そもそも今の状況が分からない……などなど、明らかに『たまたま司帝国の付近で起きたばかり』の人間である事しか出てこなかった。

念の為幽閉処置をすべきでは?という氷月の意見も出たが、取り敢えず大樹・杠達同様に監視を付ける事になった。もちろん監視の事は彼女には伝えていない。
そして監視を任されたのはーー

「僕はずっと君を、監視してただけだ……」
絞り出した声は、思ったよりも弱々しいものだった。
「君は……見た目だけで、誘惑に長けたスパイだろう、って言われて……それで……」
周りには誰も居なかった。羽京は少し落ち着こう、と息を吐くと、近場の木の根元にドサリ、と胡座をかくように座り込んだ。

「僕は……どうしたら……」

空に向かって独り言ちた。






つもりだった。
「どうもこうも、近所迷惑ですよー」
返事が返ってきた。気が付けば、ガサガサと草木を分け入り葵が来る。

「よっこらせー」お年寄りじみた声で隣に座る。
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