第2章 【第1章】前哨戦
少女を抱き抱えると、羽京は必死で走った。
死なないで、死なないで。
目の前で人に死なれるのは、もう嫌だーー
無我夢中で走り、何とかその少女は一命を取り留めた。
杠に緊急で頼んで縫製済みの服を貰い、倒れて居た少女に水分補給をして看病した。
「……その子はどの辺りに居たんだい?」
「東の森付近だよ。……最初は科学王国のスパイかと思ったから助けるか迷ったけど、一旦助けないと話を聞くことも出来ないと思って」
「うん、そうだね。羽京、君の言う通りだ。スパイかどうかは、彼女が目を覚まして話せる様になってから聞こうか。……何より右頬に割れ目があるから、彼女は復活した石化していた現代人だろうね。ただ、これも千空なら再現出来るだろうし、ブラフの可能性もある。ここは穏便に、話を聞いてからにしようか」
穏やかな笑顔を絶やさず、淡々と穏便ではない発言をする司。
もしかしたら司に殺されるかもしれない……殺されなくても、監禁状態にしたり、情報を聞き出す為に拷問される可能性はある。
出来れば無関係の人間であって欲しい。この子が苦しむ姿をまた見たく無い……。
そう願いつつ傍に控えて居ると、少女の呻き声が聞こえた。
「ん……あ……」
「っ……!!」
思わず身を乗り出す。少女の指が微かにピクピク動く。
生きている。
その事実に一先ず胸を撫で下ろす。
まもなく少女がゆるりと瞼を開けた。最初に見た時よりも遥かに明るく、グラデーションのかかった綺麗な海の色。
「んん…??」
少女が指先に目をやる。
「どこ…ここ…」
「あの……」
声をかけた瞬間、びくり、と少女の身体が揺れた。
「あ…なた、…は…?」
何も知らない、無垢な瞳が羽京の姿を映した。
「僕は羽京。西園寺羽京。……君が倒れてた所を見たんだけど…」そこまで言葉を続けて、区切った。
「あ……助けて、くれた…の…?」
少女はくい、と首を微かに左に傾げた。
「そうなるのかな」羽京も微かに笑った。「君の具合はどうかな?もう少し寝る?」
「うん……あり、がと…う…」
それだけ少女は言うと、深い眠りについた。
ありがとう。たった一言でも、その重みが、心に染みた。
……これなら多分、無関係の人間かな。
恐らく演技では無いと声の感じを聞いていれば分かった。無理に衰弱した体を振舞ってる訳でも無く、本気で彼女は寒さに凍え死ぬ所だったのだ。
