第2章 【第1章】前哨戦
「本当に、単純に曲のセレクトの話ですね〜。幸せな終わり方の曲もあるし、昼間の曲みたいな終わり方の曲もあるので。……今日は司さんがハピエン希望だったので、明くて幸せな曲を中心に選んでみました。一日の締めくくりですから。アンコールのも全部悲しい曲、無しにしました〜」
「……本当にそれだけかい?」「?はい」
きょとんとした顔で彼女がまた首を傾げた。
「そうか。うん、今日は歌ってくれてありがとう。君さえ良ければ、また時々歌ってくれないかい?」
「いいですよ〜」のんびりとした返事が帰ってきた。へにゃっとした笑顔が司を見つめている。何処か気の抜ける顔だ。
先程まで強烈な歌声と歌詞で観客を引っ張っていた人間と同一人物とは思えない表情。
「…ふふ」「どうしたんです?」「いや…君は歌う時、とても雰囲気が変わると思ってね」「それいつも周りに言われてました〜。歌う時は別人みたいって」
葵がのほほんとした顔つきで答える。
なぜだか、彼女の傍に居ると「一国の主」という姿では無く、1人の人間で居られる。
司はそんな想いで葵の横顔を見詰めた。
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「……葵。」
寝所へ向かう姿を見つけて、半ば反射的に声をかけた。のはいいが、何を話すはずだったのか、急に頭が真っ白になった。
「ふぁい?」気の抜ける返事をして、葵が振り返る。「なんか私やらかしたです?」
何故そういう話前提なのだろう。
「いや、やらかしてはいないけど」
「まあ今後あるかもです〜」
「そこは無しにして欲しいかな……」
「どうしましょ〜〜」ニコニコと葵が笑う。
本当にどういう思考回路をしているのか、さっぱり分からない。
「でもそのやらかしちゃう系の人に、何かご用なんですよね?」
くい、と右に首を傾げる。その小動物じみた緩い仕草と雰囲気に可愛いな、と心の中で感想がぽろりと出た。
いけない、彼女は監視対象だ。そもそもが危険人物だし、既に心に決めた人が居る。
変な感情を抱かない様に心の声に耳を塞いだ。
「……?話題出てこないなら、出しましょうか。
どうして昼間、石像の破壊してる場所に上手いこと出くわしたと思います?」
「……まさか、わざとなの?」
「そのまさか、かも知れませんね〜〜」ふふっ、と彼女は天使の様な歌声とは裏腹に悪女の様に不気味な笑い声をあげた。