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僕と彼女の声帯心理戦争

第2章 【第1章】前哨戦


「俺も……音楽あんま聞かないんすけど、すげぇ良かったです!」ファン以外からも良い感触。

「もう一曲!お願いします!!」次々と叫びを上げる聴衆。対して葵は落ち着いている。

「ありがとうございます〜。はいー、確かに私が昔『Aonn』名義で活動してました。さっきのはこの新世界の為に作った皆さんの為の出来たてホヤホヤの新曲ですよ〜〜」
おおっ!!と歓声が挙がる。

「皆さん、楽しんでもらえた様で何よりです。
もう一曲……は司さんに聞いてみてからで〜」
ちらりと葵が司に視線を投げる。司はニッコリと笑って頷く。
それを合図に、また観客達に向き直った。

「じゃあもう一曲ーー」

******
その日の晩ご飯は特別な日になった。
何せ夜遅くまで葵ーー旧世界では一切顔出しもプロフィールも出さずに姿をくらませた「Aonn」本人がファン達の目の前に現れ、生歌を披露し続けたのだから。

あまりにもアンコールが長すぎた為、途中で司が「そろそろ皆、明日の為に寝ようか」とストップをかけた位だ。

短い間に、葵はそれまで「力の無い、司に選ばれても居ない役立たず」と軽蔑されていたのがウソの様に周囲から尊敬の眼差しを浴びていた。
「Aonnさんの生歌拝めるとか……復活して良かった…!」「娯楽なんて無かったから本当助かるな!」と肯定的な声がライブの終わった今でも観客達の熱気と共に囁かれている。

(そういえば……)
皆、復活してから『前みたいな労働が無くて嬉しい』『復活して良かった』と口を揃えて言っていた。だが、今のこの様子を見る限り、どうやらこの生活に慣れてきた者達からすれば、やはり旧世界で文明の利器と娯楽に囲まれた事もあったのか。
彼女の歌ーー唯一無二の『娯楽』が出来た事に喜んでいた。

もしかしたら、こういう心の声は、俺では拾えないものだったのかも知れない。自身では、良くも悪くも人から尊敬の念を抱かれ過ぎて、あまり表だって思った事を言えないのだろう。

ーー本当に、彼女に歌って貰って良かった。

帰ってきた葵が司君、ただいま〜と声をかけてきた。そういえば、と司が口を開く。
「今日の歌の前の質問は、どういう意味だったんだい?」
「ああ、アレですね。ハピエンとバトエン。」なんという事は無い、という顔でしれっと葵が言い放つ。
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