第1章 【プロローグ】宣戦布告
話の先が見えない。だが、その話の見えない事による焦りも彼女の術中うちなのだろう。僕はフーッと息を吐き、続きは?と問いただした。
「つまりねー……
西園寺羽京君。私と一緒に『戦争』をしましょう?私の声帯と君の聴力。どっちが勝つか。私の心を読めれば勝ち。もし読めなければーー」
「読めなかったら?」
「さあー?《ドウナッチャイマスカネー》」
瞬間的にゾクリと体中の毛が逆立つ様な感覚。
ーーーー不気味の谷、という心理現象がある。
それは美学・芸術・心理学・生態学など、様々な分野で主張される理論。
ロボットが外観やその動作に於いて、より『人間らしく』作られる程基本的に好感度は上がり、共感的になる。
しかし、ある時点で突然強い嫌悪感に変わり、人間の動作と外観と非常に近しくなればまた好感度が上がるーーーー
「今のは、狙って出したのかな?」
「狙って声を出す、ですか〜。歌手さんなら誰でも出来るんじゃ無いですかね〜」
興味なさげに瞼を閉じて棒読みする葵。
まさか、他人に「好感」を持たれる様な声や仕草も、「嫌悪感」を持たれる所も、両方をピンポイントで狙って出せるのか。
そんなの、歌手だからという理由だけでは出来る芸当では無い。もはや役者の領域であるし、役者であってもそこまで正確に声まで演じられるかどうかーー
「それで?私の『宣戦布告』は受け取ら無いんですか?ちゃんと歴史を繰り返さない様にしましたよ」「……太平洋戦争の事かな」「そそ〜。真珠湾攻撃。ちゃんと戦争する前はこういう様式に沿ってやらないといけませんからね」
読めない。自分と戦争ーーもとい腹の探り合いをして得られる利益なんてあるのか?
いや、彼女が進んで言うならあるのだろう。その真意を測れない今、そこを考える必要はない。
「ーーその戦争、僕がのったら何があるの?」
「ふふ、簡単な話ですよ。羽京君には今後も私の監視役になってもらいます。戦争集結までずーっとね。それで私と心理戦という訳です」
「僕は君が僕達の敵ーー科学王国の内通者でないか、怪しい動きをしないかを見る為、念の為程度に付けられただけだよ。司がさっきの君との会話で恐らく君への警戒を弱めた以上、無くなる役目だと思うけど……」
「そこを何とか続けさせますよ〜」
恐らく彼女が言うなら、本当にそうさせるのだろう。
……手の内までは分からないが。
