第1章 【プロローグ】宣戦布告
「羽京君は何を考えてるか分からないストレッサーな人間にずーっと付きまとわれる訳です〜。だから戦争に勝てばーー」
「解放される…って訳だね」
「話が早くて嬉しいですねー」その割には対して表情が変わらない。声のテンポも声質も変わらない。まるで返事まで全て見通していたかの様に機械的に返答が来る。
……羽京が出来る答えは、たった一つだった。
「あはは……。のるよ、その戦争にね」
「望むところです〜。これからどうぞ末永くよろしくお願いしますね」
葵はそう言って何処かの良い家柄のご令嬢の様に足をクロスさせて、スカートの裾を持ち上げて礼をした。
かくして、僕達の戦争の火蓋は静かに切って落とされた。
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(やって、しまった……はぁ……。)
羽京に宣戦布告した後。
歌声が他の人の耳に入らないよう、普段は人があまり立ち寄らない荒地に来ていた。そこは千空という人の墓のある墓地から少し歩いた所にある荒れた草地で、滅多に人が立ち寄らない。
少し歩けばパキパキ、と足元の草原が音をたてる。適当に草むしりしながらその音でリズムを刻む。
パッパカパッパキ パキパキパキパパキ
これ面白いかも。ここじゃ楽器ないからこれ代わりにならないかなあ……
ふとこの音も近くに潜んで居るだろう羽京が耳にしてる事を思い出した。まあいいや。
どうせ彼の中で自分が『変質者』な事に変わりはないし。
でも、とふと草を手折る手が止む。
(やっぱり気になる人の気を引くのって難しいな。というか人間が難し過ぎる……)
ふむ、と考え込む。自分こそ正しくコミュ障、というのを体現した存在なのだろう。
「あーあーー!!!」
ワザと大袈裟に棒読みでバタン、と倒れてみせた。
半ばヤケクソである。後方100m程木陰で何かがピクリと動く気配。十中八九、羽京だろう。
【大丈夫。今回の予想はきっと当たらないよ。じゃあ、またね。行ってきます】
そう笑って去って行ったかつての結婚相手の姿がよぎる。
心配だよ、重病になったおじいさんの世話なんて本来親御さんが何とかする所じゃないの?孫の× × 君に押し付けるなんて絶対怪しい。それに君は――だし……本来なら看護するなんて……
そう言ったらそんな訳ない、と一蹴された。