第1章 【プロローグ】宣戦布告
僕も何か、彼女にしてやれないだろうか?司が彼女が死なないよう、歌う場所を設けた様に。彼女が歌えば、きっと彼女のファン達が喜ぶだろうし、彼女の生きる理由になる。司はそれを見越して提案した筈だ。
でも見守るだけの自分に何が出来る?
【監視役】の自分に??
脳裏にさっきの透き通る様な綺麗な歌声が張り付いたまま、西園寺羽京は木の上で佇んでいた。
「うきょーさん」
驚いた。ずっと思考を巡らせていた、先程の少女が、いつの間にか自分の座る木の枝の下まで来ている。
音は?気配は??自分の耳を掻い潜る存在なんてーー
瞬間的に羽京は弓を引いた。
葵はわぁ、とその場限りの【棒読み】の叫び声をあげた。
……よくよく考えれば、この2週間見張っている間、彼女の発言からはどこかぼんやりとした音しか聞こえず、ノイズも無い。
何か少しでも異質な音が混じれば、自分の耳が探知する。
おかしいのだ。感情のブレが、波が。人間として本来あるはずの『心』がまるで感じられない。
ーー言うならボーカロイドが人間の身体に入り込んで話しているかの様に。絶妙に機械音に近い音を発していた。
「さっきの私の『演技』、どうでした?ホンモノみたいでしょう?」
葵が笑う。先程までの悲哀のこもった声は、歌はーー全て、演技?
「あはは、演技には見えなかったなあ」取り敢えずそう返す。
「それはどうも〜」
「……葵。君は…何者なのかな」「なにもの、ですか〜。そう言われましても〜」ニコニコと笑ったまま、首をくい、と左に傾けた。
あさぎりゲン、という男がかつてこの司帝国に居た。彼はメンタリストで、耳に心地の良い音で、好感を持たれる様な耳障りの良い言葉で話す。
発言が紙のように薄っぺらく、巧みな話術はメンタリストを名乗るだけあった。良くも悪くも危険性を感じた。
だがそれは彼が『メンタリスト』でその道のプロだからだ。真意を読み取りづらいのは当たり前だ。だが、彼ですら自分は感情までは探り当てられずとも、僅かな声のノイズーー違和感を覚える音を聴き分けた。
それがどうだ。目の前の少女ーー正確には成人しているはずの女性にはそれらがない。ゲンの様にメンタリズムを駆使するのならまだしも、彼女はその手の技術者では無い筈だ。