第4章 呪術高専①
日本国内での怪死者・行方不明者は年平均1万人を超える。そのほとんどが人間から出た負の感情、呪いによる被害。中には呪詛師による悪質な事案もある。
呪いに対抗できるのは同じ呪いだけ。
ここ、東京都立呪術高等専門学校は呪いを祓うために呪いを学び、一方で卒業後も多くの呪術師の起点ともなっている呪術界の要。
ーーというところまで、五条に説明されたが、鈴にはちんぷんかんぷんだった。疑問符ばかりが頭に浮かぶ。
両親の件も呪いによる被害のひとつだと説明された。本当にそんなことがあり得るのだろうか。けれどあの怪物に襲われたみたいな遺体は、とあの日のことを思い出すと急に血の匂いがして気分が悪くなる。
五条は鈴のメガネを借りて、どこかへ行った。鈴の翡翠色のガラス玉は特級呪物というすごく珍しい物らしいけど、それもよくわからない。
廊下から外を見るが、裸眼だから色々なものがぼやけて見える。
鈴の目が悪いことに気がついてくれたのは母だった。引き取ってもらってすぐ、もしかしてよく見えていないの?と眼科に連れて行ってくれた。
初めてメガネをかけた時、こんなに周りがはっきり見えるなんてと感動したっけ。
あんなに優しかった母にも父にももう会えない。
その事実は鈴を絶望させるのに充分だった。あんなに泣いたのに涙がまたこぼれる。まだまだ立ち直れそうにない。
「ワン!ワン!!」
すぐ近くで犬の鳴き声が聞こえた。袖で涙を拭きながら横を見ると、真っ白で額に三角の模様のある犬が座って鈴を見上げていた。