第1章 主が消えた夜
夕陽が地平線にとっぷりと沈むころ、鶯丸は縁側に座って、いつものように茶を飲んでいた。
隣で同じく茶を飲んでいるのは、三日月宗近だ。
本丸が休日モードのせいか、いつにも増してのほほんとしている。
ぱち、という 小気味よい音が響く。
三日月が石を置いた音だ。二人は囲碁をしていた。
「三日月、囲碁を覚えてどのくらいだったか」
「そうだな、一か月くらいだと思うが」
「ほう……なかなかいい手を打つじゃないか」
「そうなのか? まだ俺にはよくわからんでな」
小首を傾げ、三日月はのんびりと微笑む。
初心者だと侮っていたわけではないが、油断していると足下をすくわれてしまいそうだ。
太刀としてはもちろん、本丸においても古参の部類である自分が、まだ新顔に類する三日月に敗北するわけにはいかない。
鶯丸はそんなことを考えながら、盤を見つめた。
離れから喧噪が聞こえる。一日が終わろうとしている、心地よい静けさがあたりを包んでいた。
そんな中へ、ドタバタと足音が駆け込んでくる。