第64章 焦りと余裕
「どなたかいらっしゃったの?」
杏寿郎の手にあるお盆に気付き、受け取ろうとする。
杏「いや、俺が洗おう。
先程まで不死川と冨岡、宇髄がいた!」
千「すみません、お客様がいらっしゃったのに留守にしてしまい…。」
杏「大丈夫だ!そんな心配はする事ない。
千寿郎の時間は千寿郎の為にあるんだからな!」
しかし、その3人がいきなり来るとは。
いつもなら鴉が伺う日時を聞きに来てくれる。
「突然いらっしゃるなんて…珍しいわね。」
杏「あぁ。近くまで来たから寄ったとのことだ。
ほら、着替えておいで。居間で茶でも一杯飲んだらどうだ。」
千「そうですね。では着替えてまいります。
さ、泰葉さん、行きましょう。」
「うん。」
やんわりと濁されたような気もする。
…考えすぎだろうか。
そんな事を考えながら泰葉は自室へと着替えに向かった。
それを見送り、杏寿郎はうむ…と頭を悩ませる。
泰葉にあの話は伝えるべきだろうか。
街で女性が消えているのは知っている。
気をつけるようにとも言ってあるし、そもそも彼女は街で働く予定もない。
これ以上不安を煽れば自由に出かけることも出来なくなってしまうのでは…。
何より、縛られた生活など望んでいないだろう。
杏「これは、伝えない方が良いだろうな…。」