第59章 あなたは誰?
『本当に?』
杏寿郎の言葉にピタリと動きを止める男性。
杏「あぁ。そして、悪いが…君の婚約者とは全くもって面識は…」
菜「そんなの嘘よ!!」
杏寿郎の言葉を遮って、腕にしがみつく菜絵が吠える。
その目はキッと泰葉を睨みつけていた。
菜「煉獄様は私を美しいって言ってくださったわ!」
菜絵は更に泰葉を指差して叫ぶ。
菜「婚約者がこの女⁉︎
嘘ももう少し上手にしてくださいませ!
煉獄様の相手がこんなアバズレなはずありませんわ!」
「あっ、アバズレ⁉︎」
それには流石に泰葉も驚きを隠せない。
これは偶々この格好をしているのであって、男は杏寿郎しか知らないのに、アバズレ呼ばわりされては。
(アバズレって完全に悪口よね?なんで私この人に悪口言われなくちゃならないの⁉︎)
しかもこんな大勢の前で、そんなふうに言われては…。
この格好でいたら誰もが彼女を信じてしまうかも知れない。
泰葉は恥ずかしさで、俯いてしまった。
「あ、あのっ…」
泰葉はこの女性に何かしたかと問いかけようとしたが、自分を抱く手にギリっと力がこもるのを感じた。
ハッと杏寿郎の顔を見ると、目元に影を差し額には筋が立ち始める。
杏「…君…今、なんと言った?」
杏寿郎の声に影がかかる。
泰葉はこれ以上刺激してはいけないと、直感的に思った。
それは周囲の人間も、皆思っただろう。
しかし、今興奮状態にある菜絵には、そんな状況が把握できていない。
杏寿郎の言葉を間に受けて、また言ってやろうと口を開く。
菜「煉獄様?私とのことが知られて照れていらっしゃるなら、この後2人でお話ししましょう?」
キュッと杏寿郎の袖を掴んで、上目遣いをする。
きっとこの表情で何人もの男性がコロッといったのだろう。