第59章 あなたは誰?
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「これは?」
『芸妓の衣装でございます。』
そう並べられたのは綺麗な着物に、豪華な簪、化粧品…。
女性が着飾るには十分な物たちが煌びやかに輝いている。
「げ、芸妓⁉︎」
『本来ここは御役人さんや、位の上の方が多くお見えになります。そして、芸妓を呼びつけるんですよ。』
「そうだとしても…どうして店に着物たちが?」
芸妓を呼びつけるのであれば、芸妓達は既に着飾った状態で来るはずだ。
それなのに何故、ここで着物が用意されているのか。
すると、ふふっと笑う女性。
『お嬢さんは純粋なのね。』
『ここには2階があるでしょう?そこで致すからよ。』
…そこで致す…?
芸妓は本来、遊女とは違い客と身体は交えないはずである。
流石に泰葉も無知ではない。
「え…だって…芸妓さんて…」
『本来ならばね。でも、ここに来るのは財が有り余って困ってるくらいの人たちが来るの。その人達に常連になってもらえれば……ね。』
「えー…えー…」
ちょっと知りたくなかった裏情報である。
『でも、みんながみんなじゃないわ。どうしても客をつけたい芸妓さんとかが苦肉の策…とでもいうのかしら。大変な世界よね。』
自分の知らない世界は多いんだな…と思う泰葉。
そして、その話を聞いた後にこの着物を着るのは…ちょっと気が引ける。
『この着物…って思ってるでしょ?安心して。これは新しいのだから』
女性によると、その場合の着物はだいたい買い取られていくようだ。
その言葉に安堵する泰葉。
正直、誰かが致した時に着ていたものなど着たくはない。
『さぁ、出来ましたよ。』
気付けば支度が終わったようだ。
姿見の前に連れてこられた泰葉は目を丸くする。
「えっ⁉︎これ…芸妓さんですか⁉︎」
少しはだけた襟元。
姿見に映る自分は何というか、芸妓と遊女の間…的な格好をしている。
『きっと、煉獄様はこのくらいの方が喜ばれるわ。きちっとし過ぎず、乱れ過ぎず。』
「いや…どうでしょう…?きちっとしてる方が…」
そう濁していると、女性が顔を覗き込む。
『それに、今はお腹いっぱいだからきちっと着ると苦しいでしょう?』
「う…」
返す言葉は見つからなかった。