第55章 愛の形 ❇︎
揶揄われながら2人で離れに向かう。
そんな事を言われると、嫌でも気になってしまうのが人間だ。
なんとなくギクシャクしながら鍵を開けて、中に入る。
「そう言えば、杏寿郎さんは皆さんと一緒じゃなくてよかったの?」
何となく、久しぶりの再会で一緒にいなくても大丈夫なのかな?と思った。
だから、とくに理由なく聞いたのだが…
杏「……。」
すごく、悲しい顔をされた。
それはもう、ものすごく。
眉は下がり、いつもはしゃんとしている背中も少し猫背になって…。
「ち、違うのよ?嫌だとかそんな事じゃないの。ただ、久しぶりの再会だから、いいのかな?って。」
杏「いや、分かっているさ。分かっているが…」
杏寿郎がゆっくりと近づき、泰葉の手を取る。
杏「やっと、泰葉さんと触れ合えると思って楽しみだったんだ。」
(う、可愛い…)
そんな可愛い事を言われたら、何を言われようと受け入れてしまう自分がいる。
泰葉の考えなどお見通しなのか、杏寿郎の親指が泰葉の手の甲をすりっと撫でる。
「もー…」
堪らずなんの意味を持っているのかわからない声を出し、頬を膨らませる。
そんな可愛くてずるい!と杏寿郎に訴えたかった。
しかし、可愛いと言われて嬉しいかは謎なため言わないが。
杏「…どうした?本当に金魚のようだぞ?」
膨らんだ泰葉の頬に手を添えて優しく微笑む。
その顔は可愛さよりも色っぽい…と言った方が正しくなっている。
杏「頬の膨らんだ金魚のように愛らしい。
泰葉さんは本当にいくつもの顔を持っているな…。」
カチャンと泰葉の後ろで離れの鍵を閉め、泰葉の右手を取り、草履を脱いで上がるよう促す。
杏「こっちへ。」
そう手を引かれるのは、寝室にしている部屋。
月明かりが差し込み、明かりをつけていないのに、杏寿郎の綺麗な瞳の色を映し出す。
その瞳を見れば、これからを期待している自分の顔が映った。
自分がこんな顔をしているとは思わず、ふいっと杏寿郎から顔を逸らす。
(私ったら、なんていう顔を…)
杏「逸らさないでくれ。君の綺麗な目が見れないだろ?」
杏寿郎は逸らした顔を両手で包み、向かい合わせる。
またその瞳に自分の表情が映し出され、羞恥心が煽られた。