第48章 おかえり
「槇寿郎様も、千寿郎くんも待ってくれてるかな?
槇寿郎様は護衛にもあたってくれていたのでしょう?」
煉獄家に向かう途中、泰葉が杏寿郎に問いかける。
杏「あぁ。父と宇髄で輝利哉様の護衛にあたっていたぞ!」
「お館様達は…やはり護衛をつけずに?」
杏寿郎は泰葉の顔を見る。
(そうか…泰葉は知らないのか。)
言うべきか…言わぬべきか。
杏「お館様には…護衛がついていた。」
「…どなたが…」
杏「おそらく、帰ればわかると思うぞ!」
どうにも含みを持たす杏寿郎を不思議に思う泰葉。
他にお館様の護衛にあたれるような方がいただろうか…。
杏寿郎はそっと泰葉の右手を握る。
杏「…久しぶりだな。ずっとこうして触れたかった。
口付けだって、治癒のためじゃなく…恋人として。」
杏寿郎は足を止めて、泰葉の顔に回り込むように口付けた。
「…っ、ここは外よ?」
杏「む、残念だ。そう思っていたのは俺だけだったとは。」
残念だとは微塵にも思っていない口ぶり。
杏寿郎は泰葉の気持ちを分かって言っている。
「しばらくの間に随分と意地悪になったんじゃないの?
私がそんなこと思っていないの、分かってるくせに。」
杏「君は少し意地悪された方が好きだろう?あの時の君はいつも以上に敏感で…」
「そ、それは!語弊がある!!」
ムッと嫌味を言ったつもりなのに、顔から火が出そうなくらい恥ずかしい思いをさせられる羽目になった。
杏「…違ったか?」
してやったり。という顔をする杏寿郎。
「…もう!杏寿郎さんとは手を繋ぎません!」
悔しくなった泰葉はパッと手を離し、スタスタと歩き始めた。
これは少し揶揄いすぎたと慌てて「すまん、すまん」と謝りながら杏寿郎が追ってくる。
そんないつもは勇ましい漢が、大型犬のように寄ってくる姿に泰葉は耐えきれずクスッと笑ってしまった。
杏「…なぜ笑った?」
「さぁ?内緒です。」
こんな穏やかに笑える日がこれから待ち受けていると思うと、心が弾んでならない。