第6章 再会
杏寿郎は風をきって走る。
2人に負担がかからないように、振動もなるべく与えないように。
千寿郎は汗をかいて、浅い呼吸を繰り返している。
泰葉は…
あまりの速さと、自分より背の高い千寿郎に押し潰されて、目を回していた。
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バンッ
「ただいま戻りました!!!」
この大声で、泰葉にはトドメとなった。
杏寿郎は2人を降ろそうとすると、千寿郎に潰されて目を回す泰葉にギョッとした。
杏「よもや!!!」
杏寿郎は困ったが、とりあえず2人の外履きを脱がす。
千寿郎の自室に布団を敷いて、寝かせる。
はぁはぁ、と浅い息を繰り返す。
辛そうだ。
泰葉は目を回しているだけだと思ったので、座布団に頭を乗せ、杏寿郎が着物の上に着ていた羽織をかけてやる。
杏「すまない、気遣いができていなかった…」
と、まだ目を覚さない泰葉につぶやいた。
とりあえず、熱を上げている千寿郎の看病をするため、準備へと立ち上がった。
しばらくして、泰葉が目を覚ました。
「ここは…?」
襖が閉まり、薄暗い室内。
自分には羽織がかけられていた。
「これは、あの青年の…」
あぁ、と思い出した。
目線を移すと、布団に寝かされた千寿郎。
額に汗を滲ませ、苦しそうだ。
「さっきはありがとうね。」
そう声をかけて、前髪をそっと梳いた。
桶に水をもらってこようと、
立ち上がろうとした時、朦朧とした千寿郎が手を彷徨わせる。
どうしたのかと、手を取ると
千「…え… …母う…え…」
母を呼んでいるようだった。
(弱っている時は、母に会いたくなるものよね。)
泰葉はこの家庭の事は何も知らないが、母親がいるような気配はない。
(働きに出ているのかしら…?)
母を求めて手を握る千寿郎。
その手を離す事はできず、片手で握り、もう片方で頭を撫でた。
苦しんではいるが、少し気持ちよさそうに撫でられている。
杏寿郎は桶に水をくみ、手ぬぐいを入れて運んできた。
「せっ…」
襖を開け、声をかけようとすると、
千寿郎の手を握り、頭を撫でる泰葉の姿。