第43章 仇と執念
口を開けた襖に吸い込まれるようにして着いたのは
同じ建物内とは思えない部屋。
部屋一面が池のようで、水面には蓮の花が咲いている。
水の上を渡すように通路が何本かあり、イヤに幻想的な場所だった。
そして、そこには血だらけになったしのぶがいた。
「しのぶさん!!」
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1時間ほど前…
蟲柱 胡蝶しのぶはこの部屋にたどり着いた。
部屋に入ると、バリバリと骨が砕かれる音が響く。
中央辺りでしのぶに背を向け、人間を喰らう鬼が胡座をかいて座っていた。
しのぶの気配に気づき振り返ると、若くて可愛い女の子が来たと嬉しそうに笑う。
そいつは頭から血を被ったような鬼だった。
『やぁやぁ、初めまして。俺の名前は童磨。いい夜だねぇ。」
ニコニコと屈託なく笑い、穏やかに優しく喋る。
童磨と名乗る鬼のそばには女性の亡骸が何体も横たわっていた。
すると、1人が「た…たす…助けて…!」と、しのぶに手を伸ばす。
『しーっ!今話しているだろうに…。』
そしてその女性を殺そうとしたのか、何かをヒュガッと一振りした。
その何かを通った後には分厚い氷が現れる。
しのぶはその攻撃が来る前に女性を奪い、反対の通路に連れ出した。
「大丈夫ですか?」
しのぶが優しく問いかけると、女性の目が揺らぐ。
そして次の瞬間、ゴフッと大量の血を吐き、身体はいつの間にか切り刻まれ、しのぶの腕の中で息絶えた。
しのぶが目を見開いていると
『あ、大丈夫!そこにそのまま置いといて!
後でちゃんと食べるから!』
と、明るい声色で言ってくる。
よいしょ…と立ち上がる童磨の手には鋭い対の扇。
『俺は"万世極楽教“の教祖なんだ。
信者の皆と幸せになるのが俺の務め。その子も残さず綺麗に喰べるよ。』
そう言う童磨を見て、しのぶはこの童磨こそが姉のカナエを殺した鬼だと確信する。
し「皆の幸せ?惚けたことを。
この人は嫌がって助けを求めていた。」
『だから助けてあげただろう?
その子はもう苦しくないし、辛くもないし、怯えることもない。
誰もが皆死ぬのを怖がるから。だから俺が喰べてあげてる。
俺と共に生きていくんだ。
永遠の時を。俺は信者達の想いを、血を、肉をしっかり受け止めて救済し、高みへと導いている。』