第39章 嫉妬 ❇︎
「…杏寿郎さん?どうしたの…?杏寿郎さんってば…」
今泰葉は杏寿郎に手を引かれている。
槇寿郎の部屋を出るなり手を取られ、
いつもより早足な杏寿郎に足が絡れそうになりながらついていく。
何度呼びかけても、止まることはおろか、振り返りも喋りもしない。
どうやら、不機嫌なご様子。
泰葉は必死になぜ杏寿郎が不機嫌なのかを考える。
帰りが遅かった?
ご飯が足りなかった?
離れの玄関を開け、ズンズンと入っていく。
草履はぽいぽいと脱ぐので精一杯でとても並べる余裕などない。
スパンと襖を開け泰葉を引き入れると、襖を閉めて部屋の壁へと追いやった。
背中を壁につけるようにして立つと、顔の横にダンッと杏寿郎の両手がついた。
あまりの迫力に目を瞑り首をすくめる。
杏寿郎の様子がおかしい。
昼間はご機嫌だったのに。
泰葉は恐る恐る杏寿郎を見ると、その目はいつもの優しい目では無かった。
鋭く光る緋。
「杏寿郎…さん?」
杏「俺は今怒っている。…何故だかわかるか?」
泰葉はもう一度考えてみるが、思い当たらない。
首を振ると、はぁ…とため息をつく杏寿郎。
杏「君は俺の…?」
「…恋人…」
杏「ならば、先程のはなんだ?」
「先程…?」
先程とはいつのことだろうか。
槇寿朗との話で何かあったか…。
杏「猪頭少年の手洗いといい、廊下で竈門少年の頬を撫でていただろう。」
泰葉は自分の行動を思い出す。
確かに、ちょっとやり過ぎてしまったところがあった。
そして、杏寿郎に言われて、何故不機嫌なのかが分かった。
「杏寿郎さん…やきもち…妬いてるの?」
杏「…あぁ。そうだな。
こんなになってしまうくらい妬いているようだ。」
「んぅ!…っ、ん…!」
杏寿郎は少し乱暴に泰葉に口付けた。
それは嫉妬心をぶつけるような、荒々しいものだった。
こんな風にされるのは初めて。
「んふ、ふ…ぁ…んん」
一度顔を退こうとするも、そんなのは許されるはずもなく。
がぶっと噛みつかれているかのようだった。
実際に噛みつかれていることもあって、時々唇の輪郭あたりにピリッとした痛みが伴う。
舌は杏寿郎から逃れようとしても、すぐに捕まる負けの決定された鬼ごっこをしているようだ。