第34章 黒い薔薇
杏「ふむ…。」
杏寿郎は色々悩み出した。
思い当たるのがあるのか、明るい顔をしたかと思えば、また眉間に皺を寄せたり百面相だ。
「今すぐ決めなくても良いけれど、明日の朝にでも教えてもらえれば…」
と言いかけたが、杏寿郎の表情が明るくなった。
どうやら、決まったみたいだ。
杏「何でも良いのか?」
「…高価すぎるのはお財布と相談だけど…。」
杏寿郎が、ニコッと笑い立ち止まる。
泰葉も立ち止まり、杏寿郎の顔を見る。
杏「泰葉さん。」
「?はい。」
杏「泰葉さんが欲しい。」
「へっ…?」
泰葉は間の抜けた声を出す。
しかし、頬を赤らめつつもにこやかに、真剣な目の杏寿郎。
「私が…欲しい…というのは、どういう?」
杏「恋仲となって間もないのに、こんな事を言うのは少々はしたないかもしれないが…。
明日わからぬ命。早く泰葉さんを感じたいと思ってしまう。
だから、誕生日に願いを聞いてくれると言うのならば、泰葉さんを…この体に感じさせてもらえないだろうか…。」
杏寿郎の手が泰葉の頬を包み込む。
泰葉の心臓は大きな音を立てて飛び抜けてしまうのではないかと思った。
「…分かりました。
明後日。あなたのお誕生日の日、私を杏寿郎さんに捧げましょう。」
杏「いいのか?
無理にとは言わない。怖くなったり、嫌になったならばその時はいつでも言ってくれ。」
一応逃げ道を用意してくれるところは、杏寿郎の優しさだ。
泰葉はその優しさを受け取り、明後日までに心の準備をすることにした。