第34章 黒い薔薇
翌日、泰葉は杏寿郎と蝶屋敷に向かっていた。
「杏寿郎さん日中は休まなくてはいけないのに、朝から送ってもらって申し訳ないわ。」
いくら警護巡回しかなかったとはいえ、眠る時間も遅い。
なのに、朝早くから泰葉を送り届けてもらうのは忍びなかった。
杏「気にしないでくれ!こうして泰葉さんといられる方が、寝ているよりもよっぽど疲れが取れる!
朝食も泰葉さんが作ったものを食べられて、俺は満足だ!」
ニカッと笑って泰葉の頭を撫でる。
そう言ってくれるなら…と泰葉も微笑んだ。
その時、泰葉の右手に杏寿郎の左手がトンっと当たる。
「あ、ごめ…」
ぶつかったと思い杏寿郎の顔を見上げ、謝ろうとすると
そこには頬を赤らめた杏寿郎の顔。
杏「その、手を繋ぎたいんだ…。」
杏寿郎の手がぶつかったのは、杏寿郎が泰葉の手を握るタイミングを伺っていたから。
それが分かると、ブワッと熱くなる。
「で、でも…誰かに見られたら…」
皆の憧れである炎柱がそんな姿を見られて良いのか…
泰葉は不安だった。
杏「…泰葉さんは俺の恋人だ!それは事実なのだから、誰に見られたって構わない!
泰葉さんは、俺と恋人だと知られるのが嫌なのか?」
「そ、そんなわけない!私は杏寿郎さんの迷惑にはなりたくないって…!」
泰葉が言い終わる前に、杏寿郎は泰葉の手を握った。
杏寿郎の手は熱く、少しだけ汗をかいていた。
ギュッと力強く、でも優しい。
杏寿郎を見ると頬だけでなく、髪から少し覗く耳も赤くなっていた。
「ふふ…」
思わず笑う泰葉。
当然泰葉も耳まで赤い。
慣れない状況に喋る余裕もなく、ドキドキと鼓動を響かせながら蝶屋敷まで歩いた。
杏「俺は、胡蝶と少し話してから家に戻る。
帰りの時間にはまた迎えに来よう!」
「はい、ありがとうございます。」
笑顔ではいるが、2人は名残惜しそうに手を離し、それぞれの用事へと向かっていった。