第32章 報告と離れ
柱合会議はお開きとなり、それぞれ屋敷へと戻っていった。
まもなく夕暮れ。
産屋敷邸から離れたところで、杏寿郎と泰葉は並んで歩いていた。
杏「泰葉さん、先程の話だが…」
「先程…とは?」
先程に値する話が沢山あって、どの話題だろうかと首を傾げる。
杏「君のこれからの住う場所についてだ!!」
杏寿郎は少し高揚しているのか、いつもよりも声が大きい。
杏「その…泰葉さんは、どうしたいかと思ってな…」
期待と不安からか、頬を赤らめてポリポリと鼻を掻く。
泰葉はこればかりは二つ返事はできなかった。
「そう…ね。今のあの家での生活、好きだったから。
隣の奥さんも、お母さんみたいな存在だったし。
すぐに捨てられるかとなると…」
杏寿郎は少しだけガッカリした。
喜んで頷いてくれると思っていたから。
しかし、泰葉には泰葉の生活がある。
本人が望めば、結婚しているわけでもないので、今の生活のままでいる事だって叶うのだ。
杏「…そうだな。それで君が心残りだとしたら、俺も本望ではない。
泰葉さんの決心がついたらで構わないと思う。
しかし、以前の松本家の件や、金崎の件を思うと俺たちは心配でならないんだ。
人の命を喰らうのは鬼だけではない。イカれた人間だって同じだからな…。」
泰葉は杏寿郎の言葉に頷いた。
いつも危ない事に巻き込まれている泰葉を思って、槇寿郎も提案してくれたのだろう。
「杏寿郎さん、私隣の奥さんに明日相談してみる。
どうしたらいいか…。寂しくて決められない。
もちろん、煉獄家に住むのが嫌っていう事じゃないのよ?」
杏「あぁ、ゆっくり決めるといい。
俺たちも泰葉さんが、我が家を大切にしてくれているのは十分に分かっているつもりだ。」
「そこも君に惹かれたところだな!」
杏寿郎はニッと眩しく笑う。
「私はその笑顔も惹かれたところだな!」
泰葉は杏寿郎の言葉を真似して、悪戯に笑った。
杏「そのままそっくり君に返そう!!」
そう言って、泰葉の家までの道のりを笑いながら歩いて行った。
「送ってくれてありがとう。
気をつけて帰ってね。」
杏寿郎は、あぁ。と静かに返事をして、羽織で周りから隠すように口付けた。