第29章 痣
杏「泰葉!泰葉!!」
杏寿郎は、憎珀天と少し距離をとり、建物の陰へと入る。
腕の中に抱えられている泰葉は、変わり果てた姿をしている。かろうじて息はしている…が、鼓膜は破れてしまったのか、耳から出血し、目は閉じさせたものの髪は乱れ、着物の片腕は破れて肩から見えてしまっている。袴も大きく裂け目が入ってしまっている状態。所々色々と破れて威力の強さを物語る。
杏寿郎は泰葉をギュッと抱きしめた。
杏「俺がいながら…すまない。」
杏寿郎は自分の羽織を泰葉に被せる。
そして、そっとそこに寝かせて立ち上がった。
許せない。
杏寿郎は怒りで震えた。
今までに感じたことのない怒り。
額にはキレそうなくらいの筋が立ち、
刀を持つ手が握る力によりミシミシとなる。
心拍数はどんどん上がり、体温がグッと高くなっていくのを感じた。
ダンッ!!!
杏寿郎が走り出す。
その左頬には、輪郭辺りにぐっと赤い痣が出現した。
杏寿郎の身体は熱く、飛躍的に動けるようになっている。
あっという間に憎珀天の目の前まで詰め寄った。
杏「炎の呼吸 伍ノ型 炎虎!!!」
憎珀天に向かって炎の虎が噛み付いていく。
『!!』
ボトッ
憎珀天の左肩が切り落とされる。
杏「よくも…彼女を痛めつけてくれたな…
罪なき人に牙を剥こうものならば、この煉獄の赫き炎刀がお前を骨まで焼き尽くす!!」
ギンッと煉獄の鋭い目が憎珀天を睨みつける。
憎(こやつ…今までの気迫よりも圧が増した…!!)
ビリビリとした闘気に憎珀天も怯まずにはいられない。
一方で蜜璃にも熱い思いに燃えていた。
女の子なのにこんなに強くていいのか
また、人間じゃないみたいに言われるんじゃないのか
怖くて力を抑えていたけど
もうやめよう。
蜜「任せておいて、私がみんなを守るからね…!」
蜜璃も憎珀天めがけて走り出す。
『くそ…小賢しい!』
『無間業樹!!』