第13章 能力
泰葉がそう言うと、
杏「救世主…では無いとしたら、金魚の精かもしれないな。」
いつの間にか後ろに杏寿郎が立っていた。
「金魚の…精?」
杏「あぁ、いつも俺たちの前にひらひらと現れ、癒やしてまたどこかへ去っていく。
千寿郎も金魚の精を見たそうだぞ!」
千「はい!優しいお声で歌ってくださったのです!」
純粋な瞳で見つめる千寿郎。
この兄弟といると、さらっと恥ずかしい事を言われるので、身がもたない。
杏「泰葉さん、手を出してくれ。」
急にそんな事を言われるので、泰葉は濡れた手を急いで拭き、手を出した。
かちゃ…
そう音を立てたのは
手のひらに収まるくらいの楕円形の髪飾り。
ガラス細工が施されており、
黄金色の中に赤い金魚が泳いでいる。
「お日様の光の中を泳いでるみたい…」
そう思った。
杏「お日様の中を…か。
美しい表現だな!
実は、着物を繕いに行った帰りに見つけて買ったんだ。
次に会ったら渡そうと思っていたんだ!」
「わざわざ、私に…?」
千「あの時、何かしばらく悩んでおられたのは、これだったのですね!」
杏「千、そこまで言わなくていいんだぞ…」
杏寿郎は少し照れているようだ。
「嬉しい。大切にしますね!
ありがとうございます。」
杏寿郎は嬉しそうに笑った泰葉から目が離せなくなった。
尋常じゃないほど、心臓が脈打っている。
杏「う、うむ!遠慮せずに沢山付けてくれ!」
そんな兄の様子をみて、『がんばれ!』と千寿郎は応援した。
そして、居間から覗いていた親達も応援していた。