第1章 先輩至上主義 赤葦京治
校舎の電気が全て消えた。だから体育館にも誰もいなくて、ただ扉が開いているだけだと思っていた。
「先輩だから何してもいいって思っているんですか?」
「……はい?」
疲れているのだろうか。いや絶対に疲れている。
部活を終え、更に木兎との居残り練習を終えた赤葦は白いタオルを頭からかぶり、独り言のように呟いた。
今思えば独り言だったのかもしれない。本来マネージャーである私は帰宅している予定なのだから。
まさか部室の掃除がここまで長引くとは思っていなかった。
「だってそうじゃないですか。先輩だからって許されないと思うんです」
「あのぉー……赤葦くん……?」
ローファーを脱ぎ、彼の前に立つ。それでも赤葦は顔すら上げなかった。
もしかして私のことを言っている……?
ここ一週間で赤葦にしたことを思い出す。
自販機にお金を入れた瞬間、ブラックコーヒーを押したこと。教科書に落書きをしたこと。木兎たちと偽ラブレターを靴箱に入れたこと。うん、思い当たる節しかない。
「……ごめんねぇ、赤葦」
何があったかは知らないが、とりあえずタオル越しに彼の頭を撫でた。
すると、やっと顔を上げてくれた赤葦はゆっくりと目を見開き始めた。
「あ、え……?な、なんで茉莉さんがいるんですか……?」
「な、何でって……部室の掃除してたんだよ。あんたらが汚すから」
どうやら私のことではなかったらしい。誤り損じゃないか。
「あ、それはありがとうございます」
「で、どうしたの?先輩がどうたらって言ってたけど、私じゃないよね?私は何もしてないよね?」
「え、あー……」
「どうせ木兎だよね⁉私は何もしてないからね⁉後輩を虐めるなんてそんなことしてないからね⁉」
興奮気味に詰め寄る。赤葦はじっとりとした目をした。
「何もしてないは、嘘ですよね?」
「うっ……す、スキンシップのことですか……?」
「あれが?」
「す、すみません……」
後輩の威圧にまけ、正座をし頭を下げる。
た、確かに私がやり過ぎたところも?ま、まぁちょっとはあるかもしれない、けど。
「はぁ……もういいですよ。先輩のことは少ししか怒ってないんで」
「少ししか」
「はい。もう暗いので帰りましょう。送りますよ」
「は、はい……」