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恋い慕う 短編集

第2章 猫 (1)


りょうはこの家の主を起こさぬように静かに布団から這い出る
脱ぎ捨てられた着物をゆっくりと着付け静かに屋敷を出た

不死川が目を覚ますと昨晩抱いて寝ていたはずのりょうがいなくなっていることにすぐに気がついた
どれほどぐっすり寝てしまっていたのか、日頃の疲れで起きれなかったのかりょうがいた筈の布団の温もりはすっかりと消えていた

りょうは一定の場所に留まらない
そんな彼女はふらっと現れてはまた居なくなる
不死川はりょうを自分の所に留まらないことに苛立ち小さく舌打ちをした


りょうが歩いているとぽつりと雫が落ちてきた
それは次第に強くなり一気に土砂降りとなる

急いで屋根のある店の前に避難するがすっかりずぶ濡れになってしまった
顔に張り付いた髪が鬱陶しく纏わりつく
それを指先で掬い取っていると雨音がぼたぼたと鈍い音に変わった
見上げると傘をさした人影がこちらに近づいてくる

誰だ、と傘の主を覗き込むとそこには赤獅子のような髪をした青年がいた
青年はこちらを見ている

「ずぶ濡れだな!」

青年ははきはきとした口調で続けた

「急に降ってきたからな!そんな身なりではどこにも行けまい!俺の屋敷に来るといい」

そう言って彼はりょうを強引に傘の中に連れ込んだ
されるがままなりょう
きっとずぶ濡れのりょうを不憫に思っての行動だろうが人攫いとあまり変わらない行動に思考がまわらなくなる

屋敷に着くと手ぬぐいで髪をわしゃわしゃと拭いてくれた
まるで小さな子供にするかのような手つきでされるものだからりょうは気持ちよくなる
ごつごつとした大きな手はりょうの頭を包み込んでしまう

「着物もびしょ濡れだな!少し待っててくれ」

青年は部屋を出てどこかに行ってしまった

残されたりょうは着物を脱ぎ濡れた身体を拭く
すると部屋に戻ってきた青年

「よもや!悪い時に入ってしまった」
「いいよ別に」

肌を見られても気にも止めずりょうは続けて身体を拭いていると青年は自分の羽織を頭からかけてくれる

「女性がそんな格好をしていてはいけない」
「う?」
「ほら、これを着なさい」

そう言って手渡してくれたのは綺麗な着物だった

「これは?」
「母の若い頃に着ていた着物だ。君に合うといいのだが」
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