第50章 最後のデート
「佐野とのデート、楽しんでこいよ。最高の思い出になるようにな」
「うん!」
「行ってらっしゃい」
その言葉にピタッと固まる。
「(今度は兄さんが見送る番なんだね。あの時とは逆だ。じゃあ、私が返す言葉は決まってる。)」
カノトは真っ直ぐにマドカを見て言う。今度こそ、"ここ"で終わらせない為に。
「"行ってきます──!!"」
満面の笑みを浮かべ、玄関のドアを開ける。
「!」
するとマドカの視界に14歳のカノトと26歳のカノの後ろ姿が重なって見え、驚いたマドカは目を見開かせる。
「今の、は…?」
カノトが出て行き、ドアが閉まった後もマドカはその場から動けず、放心していた。
「(一瞬、大人になったカノの姿が見えた気がしたが…気のせいか?)」
今よりも髪が長く、背も伸びていた。大人っぽい服を着て、可愛らしいヒールを履いて、まるで本物のお姫様のように見えた。
「(綺麗だった。後ろ姿を見ただけで分かる。カノも大人になったらあんな女性になんのかな。)」
大人になったカノを想像し、マドカは目を閉じた顔でふっと笑った。
◇◆◇
マンションの下でマイキーを待つカノトは胸元に下げてあるネックレスを握り締めながら、落ち着かない様子でそわそわしていた。
「うぅ…緊張してきた。万次郎くんと出掛けるのは初めてじゃないのに…」
無駄に前髪を整えたり、着てきた服が変じゃないか何度も確認する。
「(いつもと違う私を見て、万次郎くんどんな反応するかな。ビックリするとは思うけど…きっと可愛いって言うだろうな。)」
マイキーならどんな格好のカノトを見ても絶対に可愛いとド直球で褒めるのは知っていた。考えるだけ無駄だ、と分かってはいるものの…。
「(今までは14歳の私だと思ってデートしてたんだもんね。それが急に26歳の私とデートすることになって…万次郎くんは楽しめるのかな。)」
溜息を洩らすと、向こう側から人影が見え、すぐにマイキーだと分かったカノトは嬉しそうに駆け出す。
「万次郎くん!」
「!」
名前を呼ぶとカノトの声に気付いたマイキーがこちらを見た。
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