第50章 最後のデート
「よし、最後にメイクだ」
派手めにならないように化粧をして、出来上がりを鏡で確認する。そこに映っているのは、男装している『宮村カノト』ではなく、愛する人のためにお洒落を頑張った26歳の『宮村カノ』がいる。
「うん、完璧」
自信たっぷりにそう呟き、洗面所を出る。リビングに行くとマドカは部屋に戻ったのか、そこにはおらず、カノトはマイキーと食べるお弁当作りに取り掛かった。
「まず材料を用意して、それから…」
エプロンを付け、冷蔵庫から必要な食材を出し、調理器具を使って料理を開始する。
作っている間、時々キャシーが遊んでと云うように鳴いていたが、時間も迫っていた為、カノトは"帰ってきたら遊ぼうね"と優しい手つきでキャシーの頭を撫でた。
「っと…もうこんな時間」
少しギリギリにお弁当作りが完成し、時間を確認すると時刻は9時を回っている。するとタイミングよく、携帯が音を立てて鳴り、メールが届いたことを知らせた。
「万次郎くんからだ」
【おはよ!】
【準備できてる?】
【もう少しで着くから下で待ってて!】
「"おはようございます。準備は出来てます。了解しました"……送信。」
すぐに返信し、急いでお弁当を保冷剤が入ったバッグに詰め、鞄を持ち、慌ただしく玄関へと向かう。
「もう行くのか?」
「うん」
「忘れ物ないか」
「大丈夫」
靴紐が解けないようにキュッと結び、立ち上がる。
「(髪も服も佐野に可愛いって思われたくて色々頑張ったんだろうな。本当に…お前もアイツのことが大好きなんだな。)」
両腕を交差させるように組み、壁に左肩と頭を預けたまま寄り掛かり、カノトの後ろ姿をじっと見つめる。
「兄さん?どうかした?」
見つめられていることを背中で感じ取ったのか、カノトは振り返り、不思議そうな顔を浮かべた。
「んー…今日のお前も可愛いなって。さすが俺の妹だわ。天界から天使が舞い降りたのかと思ってビビった」
「もう…何言ってるの。そういうの恥ずかしいからやめてって言ってるのに」
「マジなんだから仕方ない」
「急にキリッとしないで」
呆れるようにカノトは言った。
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