第50章 最後のデート
部屋に戻ったカノトはドアに背を預け、眉を下げて寂しそうな顔をしていた。
「……………」
「にゃあ」
「!起きたの?キャシー」
ベッドから下りたキャシーが足元に擦り寄る。尻尾をゆらゆらと揺らし、カノトを見上げて小さく鳴いた。
「君にも会えなくなるのは寂しいな」
「にゃあ?」
「…何でもないよ」
キャシーの頭を撫でた後、カーテンを開ける。部屋に太陽の暖かな陽射しが差し込み、空は青々と澄み渡っていた。
「絶好のデート日和」
落ち込む気持ちを切り替え、クローゼットを開ける。男物のラフな洋服から女物の可愛らしい洋服まで揃っていて、カノトはデートに着ていく服を引っ張り出す。
「今日で私とのデートは最後か…。とびきりお洒落して万次郎くんに今の私を覚えててもらわないとね」
その為にはうんと可愛くする必要がある。クローゼットから特にお気に入りの服を選んで、頭の中でコーデを組み合わせていく。
「スカートはこれで…トップスはこっち。ウィッグを付けて髪型もアレンジして…それからメイクも…」
過去に来るまでファッションやメイクにそれほど興味はなかった。仕事がある日は着やすい服を選んで、目立たない程度に化粧をする。休みの日もラフな格好ばかりだった。
けどマイキーと出逢い、彼に見合う恋人になりたくて、本気でお洒落を頑張ろうと思った。マイキーにはいつまでも可愛いと言われたい。ずっと好きでいてもらいたい。自分以外の女の子が霞んで見えてしまうくらい、夢中にさせたい。
「好きな人のためにお洒落するのって、こんなに楽しくてキラキラ輝いてるんだ…」
マイキーに恋をして知ったお洒落の楽しさ。マイキーに出逢わなければ知らなかった、好きな人への深い想い。
「万次郎くんほどじゃないけど、私も独占欲強めだなぁ。いつまでも私だけを見てて欲しいって思っちゃう」
ふっと笑いながらカーディガンと寝間着を脱ぎ、手に取ったスカートを履いた。
「やっぱりこのスカート可愛い」
角度によって見える色が変わる配色スカートは前がリボンになっており、くるりと回ってみると、ふわっとスカートが花が咲いたように広がり、白と紫と紺の綺麗な三色が顔を出す。
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