第50章 最後のデート
「そりゃあ、何年もカノの兄貴やってるし。あとお前の表情はどんな些細な事でも気付くんだよ、昔からずっとな」
「(…そっか。だから子供の頃から私の表情の変化に気付けるんだ。誰よりも近くで、私のことを見ていた人だから。)」
「でも今のお前の顔は俺じゃなくても分かるぞ。多分美代子さんでも気付く。好きな奴のことを考えてそんな嬉しそうな顔してんだなってさ」
「っ…………」
見透かされている事に恥ずかしさが込み上げ、頬が熱を持ち始める。
「熱いから気をつけろよ」
「ありがとう…」
出来上がったココアを持ってきてくれたマドカにお礼を言い、マグカップを受け取る。
「(温かくて美味しい。でも、万次郎くんと飲んだ時よりも甘くない…?)」
一口飲むとココアの甘さが喉の奥を通る。けれど思ったほど甘くなく、首を傾げた。
前にマイキーと作った時は甘過ぎるくらいだった。それがこのココアはあの時よりも甘味は感じず、お湯を入れ過ぎたのかとも思ったがそうでもなかった。
「(不思議。)」
深く理由は考えず、ココアをもう一口飲む。そして隣に並んで座っているマドカの横顔をチラッと見つめる。
「……………」
カノトは不安そうな表情を浮かべていた。"言うなら今か"…と。何も恐れる事はないはずなのに妙に緊張感が襲った。
「あのね、兄さん…」
「んー?」
マドカはテレビを見ながら返事をする。意を決したカノトはマグカップを持つ手にギュッと力を込め、マドカに告げた。
「今日、マイキーくんの家に泊まる」
ピタッとマドカが動きを止める。
「(断られるとは思ってない。でも兄さんに黙って無断外泊はダメだ。あの時みたいに喧嘩するのはもう嫌だから…。)」
だが一向に返事が返って来ない。カノトの不安が益々膨れ上がる。
「(…何も言ってくれない。)」
数秒間の沈黙に堪えられず、チラリと横にいるマドカに視線を移す。
「……………」
カップに口を付けたまま、テレビ画面をじっと見つめているマドカ。聞こえているのに何も言ってくれないマドカに対して眉を下げ、悲しそうな顔をするカノト。
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