第50章 最後のデート
お泊まりデート当日。セットした目覚ましが鳴る前に起きたカノトはゆっくりと上体を起こし、現在の時刻を確認した。
「…6時。楽しみで早く目が覚めちゃった」
枕元の側には真っ白な毛並みをした愛猫のキャシーが柔らかな躰を丸めてスヤスヤと眠っている。
カノトは起こさないようにベッドから下り、壁に掛けてあるカーディガンを羽織ると静かに部屋を出た。
「おはよう、兄さん」
「おー、おはよ」
リビングに行くとマドカは既に起きていて、珈琲を片手にテレビを見ていた。
「兄さん早いね」
「最近この時間に目が覚める事が多くてな」
「(おじいちゃんみたい…)」
そんなことを本人に面と向かって言うとショックを受けて泣いてしまう恐れがあるので敢えて黙る事にした。
「お前こそ早いな。今日は土曜だろ?まだ寝ててもいいんだぞ」
「えっと…目が冴えちゃって…」
「ふぅん」
「(それに色々準備に時間が掛かるし、むしろ早起きて正解だったかも。)」
「ココア飲むだろ?」
「うん、ありがとう」
「座って待ってろ」
飲みかけの珈琲が入ったマグカップをテーブルに置いてソファーから立ち上がったマドカは、キッチンに向かう。
マドカがココアを入れて持って来てくれるまで、ソファーに座り、大人しく待つ事にしたカノト。その間も彼女の頭の中は今日のお泊まりデートの事でいっぱいだった。
「(朝から好きな人に会えるなんて幸せ。しかも今日はずっと一緒にいられる。ふふ、万次郎くんとの思い出がまた増えちゃうな。)」
「…ニコニコ顔」
「え?」
「さっきからずっとニヤけてる。何か楽しいことでもあるのか?」
「そんなに…ニヤけてる?」
「遠足を楽しみにしてるガキみたいにな」
「私、子供じゃない…」
「俺からしたらお前は十分子供だよ。まだまだ心配もするし、目が離せない」
中身は大人なのに見た目で子供扱いされ、複雑そうな表情を浮かべるカノトを見て、マドカは小さく笑う。
「まぁ、そのニコニコ顔の理由には大方検討がつくけどな」
「!」
「佐野だろ」
「え!?何で分かったの!?」
カノトは驚いてマドカを見る。
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