第49章 手放せない愛を抱えて
「カノ、聞かせてくれないか?オマエが未来から来て、今まで何をしてきたか。全部、話してくれないか?」
「はい、私もその話を万次郎くんにしたかったです。聞いてくれますか?」
「あぁ」
"ありがとうございます"とお礼を言い、カノトは順を追ってマイキーに説明する。
「私はずっと…兄さんのいない世界で独りで生きてきました。…兄を失うのはこれで二度目です」
「!」
「兄さんを奪われた悲しみは…いくら時間が経っても癒えなくて…眠れない日が続きました。私の幸せだった世界が…一瞬で壊れて、色さえも失くしていったんです」
当時の事を思い出すと、心臓がキュッと苦しくなり、小さく手が震えてしまう。そんなカノトの手をマイキーは安心させるように優しくギュッと握り締める。
「兄さんは私の全てだった。兄さんがいれば何もいらなかった。あの人が傍にいてくれるから…どんな辛いことも乗り越えられた」
「……………」
「それ…なのに…」
声を震わせながら、続きを口にするのを躊躇う。いろんな思いが葛藤する中、マイキーはただ黙ってカノトをじっと見つめる。
「それなのにあの日、突然目の前から兄さんが消えた。…世界を恨みました。どうして兄ばかりが…って。」
理不尽に奪われたマドカの命。病院で手術を受けるも助からず、声が枯れるまで泣き叫んだ事を思い出す。
「もう生きる意味も分からなくなって、兄さんの後を追うことも考えたんです」
街で仲睦まじい兄妹がいると、自分とマドカを重ねて見るようになった。でもそれは余計に辛くて何度も泣きそうになった。
"私の隣には誰もいない"
"もう二人で笑い合うこともない"
"どうして兄さんなの"
マドカの死が原因で、仕事以外ではあまり外出もしなくなった。たまにタケミチに会うくらいで、後は家で過ごしていた。
「でも兄が望まないことはしたくない。兄さんには家のことでたくさん迷惑を掛けて、自分の時間を捨てさせてしまったから」
あの頃は実家にいるのが地獄で、毎日のように泣いていた。そんな自分をマドカが助けてくれた。勘当する身で家を出たマドカは、大学が終わると友達とは遊びに行かず、カノトとの時間を優先させていた。
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