第48章 打ち砕かれた野望
「ほっ。1!2!3!4!」
河川敷で落ちている小石を拾い、一人で水切り遊びをし始める千冬。上手く投げた小石は水面に波紋を拡げ、遠くまで水を切って飛び跳ねていく。
「見た!?タケミっち、カノ、12回!!」
はしゃぐ千冬は後ろを振り向き、芝生の斜面に座っている二人を見る。
「知ってる千冬くん。ギネスの世界記録は88回らしいよ」
「88回!?マジで!?」
「しかも遊びで石投げして103回の記録を叩き出した強者もいるってさ」
「どんだけ水切り極めてんだよ…」
"やべぇな"と小さく呟いた千冬を見た後、カノトは隣に座るタケミチが明らかに落ち込んでいることに気付き声を掛ける。
「タケミチくん」
「……………」
「おーい、花垣武道くーん」
「…え?あ…なに?」
「心ここに在らずって感じだね」
少し遅れて反応してくれたが、相変わらず上の空状態だった。水切り遊びを終えた千冬もこちらにやって来て、タケミチの隣に座った。
「まぁそりゃあ、エマちゃんもイザナも死んでこんだけ色々あったら気持ち晴れねぇわな」
「…稀咲ってどんな奴だったんだろ?」
「え?」
「………、オレ…勘違いしてた。稀咲はタイムリーパーなんかじゃない」
「え!?」
「あいつはたった一回の人生で東卍を操り、大勢の人を殺し、日本の不良のトップにのぼりつめたんだ」
「……………」
「だってアイツケンカ弱ぇーんだぜ?頭と度胸だけでのぼりつめたんだ。すごい奴だ…」
「すごかろうがなんだろうがそれがどうしたよ!?アイツはクソヤローだ!!」
「千冬くん…」
「オマエが気ぃもむ必要ねぇんだよ。死んで当然のヤローだ」
稀咲を賞賛するタケミチに納得がいかず、立ち上がった千冬は不満げに言った。
「確かに稀咲はクソ野郎だよ」
「いや、クソ野郎とは言ってないんだけど…」
「心底アイツのことが嫌い、大嫌い。でも…あんな形で生涯を終えるのは…流石の私でも正直心が痛む」
「カノまで何言ってんだよ…!」
「稀咲に同情する訳じゃない。ただ…改めて気付かされたの。人間は弱い生き物で、たった一つの命すらも簡単に失っちゃうんだってことに」
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