第48章 打ち砕かれた野望
「イザナ…」
「(どうしようこのままじゃ万次郎くんが撃たれる…っ!)」
「…ねぇ、母さん」
"これからは一人だから強く生きろ"と別れ際に涙ながらに伝えられた母親の言葉。その約束通り、イザナは喧嘩で強くなった。ただし…喧嘩という名の【暴力】でだ。
「銃なんて汚ぇぞイザナ!」
「……………」
「万次郎くん…」
間近で銃を突き付けられていると云うのに、マイキーは表情を一切変えず、冷静な眼でイザナを見据えている。
「喧嘩でまで負けたら何もなくなっちまうんだよ…」
「(目がイッちゃってる。イザナ、本気で万次郎くんを撃つつもりだ…。)」
「死ねよマイキー」
「撃てよイザナ。それでオマエの気が済むんならな」
「煽んなマイキー!!ソイツは本気だぞ!!」
「イザナ!!一旦落ち着いて話をしよう!!」
「どうしたイザナ!!?撃てよ!!撃ってみろ!!!」
瞳孔を見開き、荒い呼吸を繰り返すイザナ。すると鶴蝶がイザナの構える銃を吹き飛ばし、地面を転がる銃は稀咲の足元で止まる。
「鶴蝶…テメェ、何しやがる?」
「イザナ…もういいだろ…?オレらの負けだ」
「下僕が王に意見すんのか?あ!?」
「…オレは…」
鶴蝶は初めてイザナに出会った時のことを思い出した。子供の頃、事故で両親を無くし、死のうと思っていた矢先、イザナから"生きる価値"を与えられた。その日以来、二人は『王』と『下僕』の関係になった。
「オマエの為だけに戦ってきた。どんなにオマエの思想が歪んでいようが構わねぇ。オマエの為なら喜んで死んでやるよ。だからもうそんな醜態を晒すな」
「……………」
「オマエの情けねぇ姿は見たくねぇんだよ!!」
どうにかしてイザナに思い留まってもらおうと必死に説得する鶴蝶。だが天竺が敗ける事は自分の負けを認めるようなもので、絶対に敗北を認めないイザナは振り向き、S62世代の面々に言う。
「おい幹部共、何ボーッと見てやがんだよ。はやく鶴蝶(コイツ)殺せよ」
王として命令を下すも、本人達は座ったまま動こうとしない。きっと彼らももう分かっている。これ以上戦っても天竺に勝ち目がない事を。自分達の敗けである事も。
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