第46章 東卍vs.天竺
「まずはオマエが出ろ…獅音」
イザナの後ろから現れたのは、左の米神に獅子の刺青を彫った男だった。
「今日の"魁戦"はオレが引き受けた。黒龍元総長!天竺四天王、斑目獅音!!!」
「(コイツが九代目…!)」
「東卍は誰が出る!!?」
「(東卍が創設するきっかけを作った男か。喋り方と態度からして随分偉そうだな。)」
「さきがけせん?なんだソレ?」
初めて聞く単語に疑問を覚えたタケミチの質問に山岸がご丁寧に説明してくれた。
「S62世代で流行った儀式だよ。まずはタイマンで後の全面対決を盛り上げるんだ」
「へー…さすが不良事典」
「(ここが一番大事。勝った方の士気が上がって、喧嘩の流れも掴みやすくなる。)」
「…なるほど。今日の抗争、先陣切るならオレしかいねぇだろ!」
魁戦を務めるなら自分が適任だと思ったタケミチが前に出る。
「オイオイ冗談はやめろよ東卍!!マイキードラケン三ツ谷にスマイリー、中心メンバーが一人もいねぇからってよぉ、魁戦の役者もいねぇのか!?」
見下すように嘲笑う斑目の高圧的な態度にイラッとし、不快そうに顔をしかめ、冷たい声で斑目を見る。
「そうやって自分の強さを驕ってる奴に限って、負けるのがオチなんだよなぁ」
「あ?」
「うちの"総長代理"は強いですよ。なのであまり僕達の力を見誤らないで下さいね。調子に乗ってるとすぐ後悔する事になりますよ」
「…誰だテメェは?」
ピキッと斑目の米神に青筋が浮かぶ。
「貴方の事が大嫌いなので教えません」
張り付けた笑みを浮かべて刺々しい言葉を吐けば、それが気に障ったのか、斑目の顔が怒りで歪み、またピキッと青筋を立てた。
「(相変わらずクソ生意気な奴だ。"狂犬"と恐れられた獅音にも物怖じせず、堂々と構えてやがる。怖いもの知らずもここまでくるといっそ清々しいな。)」
イザナは小さくフッと笑う。
「(いいな…ますます欲しくなった。)」
カノトのような人間は初めてだった。誰もが自分を恐れる中、あの日会ったカノトだけが自分を恐れず、生意気にも"王"たる自分に逆らったのだ。だからこそ余計に興味が湧いたし、宮村カノトという人間の事を、もっと知りたいと思った。
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