第46章 東卍vs.天竺
「エマちゃんの存在はドラケンくんの中で大きかったはずです。だから彼女の死を…受け入れられないんですよね?」
「……………」
「今まで傍にいてくれて、自分の心の支えにもなってくれてた人が、ある日突然、目の前から消えてしまった。その何とも言えない喪失感と空虚感は…私にも痛い程わかります」
私の心の支えだった兄さん
兄さんがいれば何も怖くなかった
だけど突然…目の前から消えてしまった
その時の喪失感と空虚感は
言葉では言い表せないほどに
耐え難いものだった
「でもね、ドラケンくん…」
初めて兄さんを失った日に
私は一度、壊れた
でもタケミチくんのおかげで
タイムリープして過去に戻って来れて
また兄さんと再会することができた
「前に進む事を諦めたら、ずっと"そこ"に囚われたままなんです。道は続いているのに歩む事を止めてしまったら…何も変えられないんです」
私達は何度も過去に戻って
大切な人を救うことができる
でもこの二人は…過去には戻れない…
だから大切な人の死を
受け入れることも
乗り越えることもできない
「(それは…わかってるつもりだ。)」
"でも…"と心の中で呟く。
「どんなに悲しくても、どんなに辛くても、"そこ"から一歩踏み出さないと、何も始まらないんです」
無神経な事を言っているのは分かっていた。たった今、大切な人の死に直面して、身も心もボロボロだと言うのに。ドラケンにとってカノトの言葉は残酷に聞こえるだろう。
「私の言葉を煩わしく感じるかも知れません。けど…このままじゃドラケンくんは壊れます。貴方まで…堕ちないでください」
マドカが死んだ日からカノトの全てがおかしくなった。それまで色鮮やかに映っていた世界は色を失くしたかのように薄れ、楽しいと感じていた日常は一瞬で窮屈になった。
心に穴が空いたまま、マドカのいない世界で過ごすカノトは、生きる意味すら失っていた。死にたいと思った事は一度や二度ではない。マドカの死を嘆き、何度泣いただろう。最愛の人の死はそれほどまでに重かった。
「あの頃の私のようには…ならないでください」
眉を下げ、悲しい顔を浮かべる。
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